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【第11回角川つばさ文庫小説賞】あさつじみかさん と しおやまよるさんが金賞を受賞

小・中学生を読者対象とした児童文庫レーベル「角川つばさ文庫」を発行するKADOKAWAは、2022年7月1日から8月31日に作品を募集した「第11回角川つばさ文庫小説賞」の受賞作を発表しました。

「一般部門」では金賞2作品の受賞が決まりました。受賞作品は、角川つばさ文庫から刊行される予定です。
また、「こども部門」では北海道の小学6年生が〈グランプリ〉を、東京都の小学4年生、中学2年生がそれぞれ〈準グランプリ〉を受賞しています。

 

一般部門 〈金賞〉2作品概要

 
《金賞》「社長ですが、なにか?」 あさつじみか さん

【あらすじ】
「「商品開発イベントぉ?」」それは去年の夏休み。おさななじみと親友と3人で出た、聞いたこともないイベント。「『子どもが熱中するような画期的でおもしろい勉強ドリル』を開発してほしい」ってお題に挑んだら、なんと考えたアイデアが商品化。実際にお店にならんで、即・完売の大ヒット! 子どもとか大人とか関係なく「ひらめき」1つで勝負できちゃう《企画》って超たのしい……もっと挑戦してみたくなったわたし、小学生だけど会社をつくって「社長」になりました!! 初仕事は、2つの企業からの「共同開発」のおさそいで?

 
【プロフィール】
​石川県在住。さそり座のA型。
何ごとも、ハマるととことんハマる性格です。
今は柄にもなく紅茶にハマっています。

 
【受賞の言葉】
このたびはすばらしい賞をいただきまして、誠にありがとうございます。
選考にたずさわってくださったすべてのみなさまに感謝しております。
今回賞をいただけた物語には、自分自身が体験してきたことをぎゅっとつめこんでいます。小学生の時に「将来は社長になりたい」って言っていた友だちがいたなあ、中学生の時に主張大会でスピーチの練習をいっぱいしたなあ、高校生の時に商品開発をがんばったなあなどなど……。
今までの経験のおかげで書くことができましたし、無意味なことってないんだなとつくづく実感しました。
それもすべて、この賞に選んでいただいたおかげです。重ね重ねになりますが、本当にありがとうございます。これからのわたしのチャレンジが、自分だけでなくほかのだれかにとっても意味のあるものになるようがんばります!

 
《金賞》「龍神さま、お守りします! ~信じる力と花言葉!~」 しおやまよる さん

【あらすじ】
柔道がトクイな中1の白沢みくに。「勝ち気な柔道女子には似合わない」って笑われても、きれいな花が大好き! 勇気を出して華道部に入部すると、イケメン部長のほむらセンパイ、クールなモテ男子の幼なじみ・伊織や、ミステリアスな美少年・竜ヶ水センパイがそろっていて、なぜか学校じゅうの注目の的に!? 楽しく生け花がしたかっただけなのに……! そんななか、校内では『神隠し』のうわさが広まっていた。人の心をうばい、別人に変えてしまう“九尾の妖狐”なんて、本当にいるとは思えない。でも、ある日の放課後、竜ヶ水センパイがバケモノにおそわれそうになっていて!? 「みんなを守れるのは、『花』の力を信じることのできるキミだけだ」って、いったいどうすればいいんですか!

 
【プロフィール】
​兵庫県在住。大学では物理を学んでいました。趣味は野球観戦。ぷよっとしたものを消すパズルゲームも好きですが、誰も遊んでくれないので、ひたすらCPU と戦っています。

 
【受賞の言葉】
つばさ文庫小説賞に挑むのは、今年が三度目でした。昨年「これは絶対大賞だ!」と自信満々に出したお話が一次選考で落ちてしまい、めちゃくちゃにへこみました。正直、「向いてない」「もう小説を書くのはやめておこう」とさえ思っていました。もしそこで書くのをやめていたら、この物語は生まれなかった。あきらめなくてよかったと、喜びをかみしめています(ちなみに、昨年の作品を読み返してみたところ、普通につまらなかったです。なぜあんなに自信があったのかは、今世紀最大の謎です)。
今回は、とにかく自分が「楽しい」と思えるお話を書きました。読む人にもおもしろいと思ってもらえたら、こんなに嬉しいことはありません。これからは、たくさんの人に「読んでよかった!」と笑顔になってもらえるよう、明るく楽しい物語をお届けしていきたいです。
末筆ではございますが、このたびは栄えある賞をいただき、本当にありがとうございました。選考委員の先生方をはじめ、選考に携わってくださった全ての皆さまにお礼申しあげます。

 

一般部門 選考委員選評

 
◆宗田理さん
作家。代表作は『ぼくらの七日間戦争』。「ぼくら」シリーズは角川つばさ文庫でも大人気。

「社長ですが、なにか?」は、ストーリーがよくまとまっていて、楽しく読めた。特に、小学六年生が仲間とともに会社を立ち上げ、大人たちとアイディアで勝負するという構成が良かった。この作品の肝は、なんといっても子どもたちの考える文房具のアイディアだが、「これなら自分も欲しい」と読者を夢中にさせるような、子どもならではの、夢のある文房具をぜひ見てみたいと思った。大賞には届かなかったが、子どもたちの描写も生き生きとしていて、十分金賞に値する作品だ。

同じく金賞の「龍神さま、お守りします! ~信じる力と花言葉!~」は、龍神さまを守るために、花言葉の力を使うという発想が面白かった。神々の立場や関係性、それぞれの持つ特殊能力など、設定がやや粗く、少し見直しても良いと思う。主人公たちと妖狐との戦いの中で、この世から消えてしまった龍神さまを、最後に、敵であった妖狐が元に戻すという展開はやや理解に苦しんだ。後半を整理することで、より読み応えのあるエンターテインメント作品になるだろう。

残念ながら選に漏れてしまった二作品について。
「カミヒメのマネージャー、はじめました」は、どんな霊でも呼び出せる霊媒師、カミヒメを中心とする物語にしては、こじんまりとしていたように思う。茜と祖母、夕月と母との再会のシーンは心があたたまった。
「今日からママになりまして!」は、作者の思想が作品に反映されていて、その点は評価できる。だが、悪魔や天使が存在する世界で起きる「三界大戦」へのストーリー展開は少し丁寧さに欠け、唐突に感じた。
二人の作者の再挑戦を待っている。

今年で11回目を迎えた角川つばさ文庫小説賞だが、過去の受賞作の傾向からか、近年、似かよった作品の応募が多いように感じる。いずれも文章が上手く、作品に引き込む力があるが、すでにある物語の枠から飛びだすことができていない。既成概念からはみだしたような、独創的でスケールの大きい応募作を期待している。

 
◆本上まなみ さん
女優、タレントとして活躍するほか、エッセイや絵本などの著作も多数。

金賞受賞作は「社長ですが、なにか?」。“うそつきドリル”や“ぜったいに使ってはいけない文房具シリーズ”など、わくわくするような商品名に心掴まれました。小学生が大ヒット商品を生み出し、それを機に起業、大手企業からの共同開発の依頼に舞い上がりつつもこれを蹴り、経営難にあえぐ親友一家の町工場を救おうと立ち上がる……。新しいアイデアが生まれる過程も胸熱くなる展開で、これを小学生3人組がやってのけるというのが痛快でした。ライバル社の社長や町工場のおじいちゃんなど大人の描き方もうまい。すぐ続きが読みたくなる、抜きんでた一作です。

同・金賞「龍神さま、お守りします! ~信じる力と花言葉!~」は、主人公が柔道の心得のある強い女の子、個性的でとても魅力的でした。学校を舞台に不可解な出来事が次々起こるという設定こそオーソドックスですが、妖狐と対峙する際ちっとも引かず冷静に倒し方をシミュレーションするとか、カマイタチに前髪切られてショックを受けるとか、怖くないの? 前髪気にしている場合? など読み手が突っ込みたくなるスキを作るのが上手い。生徒が次々良い人間になっていくという謎も、不気味でいい。ひとりひとりが無自覚のまま勝手に良い人に変わっていくことを主人公が不審がり、違和感を覚えるのです。事態が複雑になる分細やかな表現が必要となりますが、それが成功。挑戦された甲斐がありました。

「カミヒメのマネージャー、はじめました」は降霊術がテーマ。霊界と現世を繫ぐ霊媒師を母に持ち、その誠実な仕事ぶりを尊敬、憧れる少女が主人公。でもその力が自分にはないと知り、落ち込む姿が切なく描かれます。一方、芸能界の描き方には昭和の雰囲気が。令和=現代のアイドルに関心を持ち、ファンとの距離感など観察する必要はあったかもしれません。主人公の出身地が30 年に一度霊媒師が生まれる村という設定でした。この部分を丁寧に描けば、物語に神秘的な彩りが加わり土台としてさらに安定しそうです。

「今日からママになりまして!」は冒頭部分の赤ちゃんが降ってくるインパクトが、時間が遡っていく描写を続けることで薄れていくのがもったいなかった。途中、回想として入れる方法もあったかもしれません。主人公と未来の夫くん、どちらも健やかな良い子だからか未来から来る赤ちゃんもおりこうさんですが、だとしても、はちゃめちゃなことが起きる方が面白いかも。小さなママと幼子との仲むつまじさは心が温まりました。ファンタジー要素を大事にするなら細かいところまで丁寧に作りこむ、赤ちゃんが降ってくる驚きを際立たせたいなら、他の部分はリアルになど、重心をどこに置くか定めるとお話もきゅっと締まると思います。

最終選考作品は、角川つばさ文庫のヒット作や過去の受賞作をよく研究され、読者に好まれそうな題材をテーマにしたものばかり。文章もまとまっていて、執筆に慣れた方が多いと推察しました。全体の水準が高いにもかかわらず大賞該当作がなかったのは、抜きんでた熱量や独創性といったインパクトがやや足りなかったことに尽きます。もっと自由に発想をふくらませ、既存の枠からはみ出すような物語を書いていただけたら。今回選外となってしまったお二方もぜひまたチャレンジしてください。お待ちしています。

 

こども部門 〈グランプリ〉〈準グランプリ〉作品概要

 
《グランプリ》「鼻ハニカム」 コッペパン侍さん(小学6年)

【あらすじ】
僕の小5の忘れられない思い出。ヒマな春休み、古民家から撤去されるハチの巣のニュースを見ていた僕はつぶやいた。どうせなら、撤去されないような安全な所に作ればいいのに。人間の鼻の穴とか――なんて。次の日の朝、鼻をかもうとしたら、声がする。女王バチ・スカルが、言われた通り、僕の鼻の穴に巣を作ったというのだ! めぐる季節の中、ハチ達は働き、時に僕の算数の勉強を手伝ってくれ、そして、命の重みを感じる別れと旅立ちが――。

 
《準グランプリ》「ある事件」 久保田凜さん(小学4年)

【あらすじ】
高級ホテルの一室、一夜の攻防の物語。いかにも金持ちそうな女が、ベッドでいつものように眠りにつこうとしていたところ、突然窓ガラスが割られ、男が侵入してくる。男は強盗で、女をガムテープで縛ると現金を奪い逃走する。男はもともと貧しい生活をしていて、これまでも何度も強盗を成功させ、金品をアジトに蓄えていた。一方、女は実は警察だった。そして、男を捕まえるためにおとり捜査をしていた。作戦は成功し、女は男のアジトの場所を突き止め、向かう。男の盗品をすべて自分のものにするための大きなカバンを持って。

 
《準グランプリ》「神室山へ至る」 宮原知大さん(中学2年)

【あらすじ】
とある屋敷をたずねた『私』に、老人が昔語りを始める。若かったころ、老人は登山が趣味だった。友人の井上、大島と出かけた雪の神室山で、意見のすれちがいから二手に分かれてしまう。山小屋にたどりついて一夜をすごし、命をとりとめた老人たち。しかし、山小屋の外で、井上の死体を発見する。二人は井上を見殺しにしてしまっていた。亡骸を隠し、その死をなかったことにしたが、老人は彼を忘れないため、人差し指一本を切り取って持ち帰った。――語り終えた老人がその『私の指』を手渡そうとするのを断って、『私』は自分のいるべき場所・神室山に戻るのだった。

 
※なお、第11回角川つばさ文庫小説賞の最終選考結果の内容や、各賞についてのさらに詳しい選評等は、角川つばさ文庫小説賞公式サイト( https://tsubasabunko.jp/award/ )をご覧ください。

 

角川つばさ文庫・角川つばさ文庫小説賞について

「角川つばさ文庫」は、2009年3月に創刊。「次はどんな本を読もう?」そんな子どもたちの「読みたい気持ち」を応援する児童文庫レーベルです。青春、冒険、ファンタジー、恋愛、学園、SF、ミステリー、ホラーなど幅広いジャンルの作品を刊行しています。レーベル名には、物語の世界を自分の「つばさ」で自由自在に飛び、自分で未来をきりひらいてほしい。本をひらけば、いつでも、どこへでも……そんな願いが込められています。

主な作品に『ぼくらの七日間戦争』『新訳 ふしぎの国のアリス』『怪盗レッド』『いみちぇん!』『四つ子ぐらし』シリーズなど。毎月15日発行。

 
「角川つばさ文庫小説賞」は、小・中学生の子どもたちにもっと読書を楽しんでもらいたい、という願いを込めて2011年9月に創設された小説賞です。

★角川つばさ文庫オフィシャルサイト:https://tsubasabunko.jp/
★角川つばさ文庫小説賞オフィシャルサイト:https://tsubasabunko.jp/award/

 
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