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この世には辞典に入れてもらえないことばがある――名もなき女性たちのことばを集めた『小さなことばたちの辞書』が刊行

ピップ・ウィリアムズさん著『小さなことばたちの辞書』(訳:最所篤子さん)

ピップ・ウィリアムズさん著『小さなことばたちの辞書』(訳:最所篤子さん)

2021年豪州ベストセラー1位(フィクション部門)、NYタイムズベストセラーリスト入りとなった、ピップ・ウィリアムズさん著『小さなことばたちの辞書』(訳:最所篤子さん)が小学館より発売中です。

 

「ことば」を愛するすべての人に贈る珠玉の一篇!

女性参政権運動と第一次世界大戦に揺れる激動の時代――。
本書は、草創期の英国「オックスフォード英語大辞典」編纂室を舞台に、〝捨てられたことば〟の蒐集に生涯を捧げた女性を描く歴史大河小説です。

 
19世紀末の英国、母を亡くした幼いエズメは、「オックスフォード英語大辞典」編纂者の父とともに、編集主幹・マレー博士の自宅敷地内に建てられた写字室に通っている。ことばに魅せられ、編纂者たちが落とした「見出しカード」をこっそりポケットに入れてしまうエズメ。ある日見つけた「ボンドメイド(奴隷娘)」ということばに、マレー家のメイド・リジーを重ね、ほのかな違和感を覚える。この世には辞典に入れてもらえないことばがある――エズメは、リジーに協力してもらい、〈迷子のことば辞典〉と名付けたトランクにカードを集めはじめる。

 
≪私はトランクの中のことばたちを想った。カードを見るまで、聞いたことも読んだこともないことばもあった。たいていはありきたりなことばだったが、カードや手書きの文字にまつわる何かが、それらのことばをわたしたちにとって愛おしいものにした。たどたどしく書き写された用例がついた、決して〈辞典〉に入ることはないだろうへたくそな文字のことばたち。たった一文しか存在しないことばたち。そうした生まれたてのことばや一度しか使われたことのないことばが〈辞典〉に載ることはない。でもわたしはそのすべてが愛おしかった。

ボンドメイド(はしため)は生まれたてのことばではない。そしてその意味にわたしは心をかき乱された。リジーの言うとおりだ。それはローマの女奴隷を指すのと同じように、リジーのことも指している。≫
(本文より)

 
学問の権威に黙殺された庶民の女性たちの言葉を愚直に掬い上げ続けたエズメの姿に勇気をもらえる名編です。

 
「生きるということは、ことばを集めることだ――べつに辞書編纂者でなくても。エズメがそれを教えてくれる」
――国語辞典編纂者・飯間浩明さん

 
「彼女は彼女なりの人生を、不器用にそして誠実に生き、自分のできることをして、多くの人の力を借りながら女性たちのことばと人生の断片を先の世に伝えようとした。これは史実をもとにした架空の物語だが、現実の世界でも、個人的な違和感が社会の大きな問題の入り口であることは少なくない」
――訳者:最所篤子さん

★本書『小さなことばたちの辞書』に関する訳者のコラムはこちら:https://shosetsu-maru.com/yomimono/essay/chiisanakotobatachi

 

著者プロフィール

 
■著者:ピップ・ウィリアムズ(Pip Williams)さん

ロンドンに生まれ、オーストラリア・シドニーで育つ。現在はアデレード在住。共著『Time Bomb: Work Rest and Play in Australia Today』(未邦訳)を出版後、2017年によき人生を求める家族の旅の記録『One Italian Summer』(未邦訳)をアフォーム・プレス社より刊行した。ほかに旅行記事や書籍レビューを手がけ、掌編小説、詩などの作品もある。『小さなことばたちの辞書』は著者初の長編小説である。

 
■訳者:最所篤子(さいしょ・あつこ)さん

翻訳家。英国リーズ大学大学院卒業。訳書にロッド・パイル著『月へ 人類史上最大の冒険』(三省堂)、ハンナ・マッケンほか著『フェミニズム大図鑑』(共訳、三省堂)、ジョジョ・モイーズ著『ワン・プラス・ワン』(小学館文庫)、同『ミー・ビフォア・ユー きみと選んだ明日』(集英社文庫)、アンドリュー・ノリス著『マイク』(小学館)など。

 

小さなことばたちの辞書
ピップ・ウィリアムズ (著), 最所 篤子 (翻訳)

ことばに生涯を捧げた女性を描く珠玉の一篇

19世紀末の英国。母を亡くした幼いエズメは、『オックスフォード英語大辞典』編纂者の父とともに、編集主幹・マレー博士の自宅敷地内に建てられた写字室に通っている。ことばに魅せられ、編纂者たちが落とした「見出しカード」をこっそりポケットに入れてしまうエズメ。ある日見つけた「ボンドメイド(奴隷娘)」ということばに、マレー家のメイド・リジーを重ね、ほのかな違和感を覚える。この世には辞典に入れてもらえないことばがある――エズメは、リジーに協力してもらい、〈迷子のことば辞典〉と名付けたトランクにカードを集めはじめる。
大英語辞典草創期の19世紀末から女性参政権運動と第一次世界大戦に揺れる20世紀初頭の英国を舞台に、学問の権威に黙殺された庶民の女性たちの言葉を愚直に掬い上げ続けた一人の女性の生涯を描く歴史大河小説。
2021年豪州ベストセラー1位(フィクション部門)、NYタイムズベストセラーリスト入り。「ことば」を愛するすべての人に贈る珠玉の感動作。

【編集担当からのおすすめ情報】
皆さんは、被選挙権を含む女性の参政権が世界で初めて実現したのは、オーストラリア(南オーストラリア州)だったとご存じでしょうか。
本作は、そんなオーストラリアで昨年、ベストセラー1位(フィクション部門)となった小説です。翻訳者の最所篤子さんから本作をご紹介頂いたとき、「そんな国だからこその1位だろう」と納得しました。その思いは、原稿を読み終えた後、このような小説が一番読まれているオーストラリアを、心の底から羨ましいと思う気持ちに変わりました。ジェンダーギャップ指数が世界156か国中120位(2021年)という日本でこそ、男女を問わず広く読まれてほしい小説です。
女性の権利を求め闘った先人たちの努力をつぶさに知ることが出来る一方で、「小さなことばたち」を掬い上げ続けることで、女性参政権運動にすら加われない弱い立場の女性たちにそっと寄り添った一人の女性の生涯に胸打たれる作品です。日頃何気なく使っている「ことば」についても、改めて深く考えさせられます。そしてエズメと彼女を取りまく人々との友情、家族愛、仕事仲間との絆、恋愛、数々の別れに何度も泣きます。
ぜひ、お愉しみ頂ければ幸いです。

 
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最所篤子『小さなことばたちの辞書』 | 小説丸

 


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