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故・魚住陽子さん個人誌「花眼(ホゥエン)」からの短編集『坂を下りてくる人』が刊行

駒草出版は、魚住陽子さんが遺した個人誌『花眼(ホゥエン)』からの短編集『坂を下りてくる人』を刊行しました。

 

──ここにいないものを ここで想うということ──

1951年に埼玉で生まれた魚住陽子さんは書店や出版社に勤務するかたわら同人誌に詩を発表、カルチャースクールで小説を学び、35歳の時に作家デビューしました。1989年には『奇術師の家』で第1回朝日新人文学賞を受賞し、その他芥川賞をはじめとする文学賞へも幾度となくノミネートされました。『水の出会う場所』『菜飯屋春秋』など、その独自の世界観は多くの読者を魅了し、根強い人気を獲得します。しかし腎臓の病を患い、残念ながら2021年8月、69歳でその生涯の幕を閉じました。

 
【魚住陽子さんの美のこだわりが詰まった個人誌『花眼(ホゥエン)』】

かつて「花眼・ホゥエン」という美しい言葉の、美しい意味を教えてもらったことがある。近くのものは朧ろにかすみ、遠くのものだけが晴朗に見渡すことができる目。平たく言えば老眼のことだけれど、広義には「春の満開の花の中に秋の衰弱と凋落を見、命の輝きのさなかに死を予見する。反対に秋の別離と荒廃の最中に、萌え出る生命と、満開の花を透視することができる」という意味もあるのだという。
――『花眼』No.1「あとがき」より

 
1996年「動く箱」発表後に腎臓の病を患って透析生活を送った魚住陽子さんは、腎臓移植を受けた後に執筆を再開し、2006年から2011年にかけて個人誌『花眼(ホゥエン)』全10号を刊行しました。

 
自身や他の作家の短編はもちろん、心情や近況を綴ったエッセイのような趣があるていねいな「あとがき」も収録したこの冊子は、装画のチョイスなどにも一貫した美意識を感じることができます。

個人誌のため、当時書店などでは手に入らなかった貴重な “魚住文学” の一つです。

 
2021年の急逝後、一周忌を前に発表された『夢の家』に続いて刊行される本書『坂を下りてくる人』は、そんな『花眼』からの10編の短編と、著者による全10号分のあとがき、そして『花眼』各号の表紙・裏表紙やその制作背景についてのテキスト(装画を手掛け、寄稿もしている魚住さんの伴侶・加藤閑さんによる)をまとめた一冊となっています。

 

本書の目次

中庭の神
朝餉
坂を下りてくる人
骨の囁き
白い花
芙蓉の種を運んだのは誰
野末
山繭
夕立ち
シオノ

附録 個人誌『花眼』について

 

著者プロフィール

著者の魚住陽子(うおずみ・ようこ)さんは、1951年生まれ。埼玉県出身。埼玉県立小川高校卒業後、書店や出版社勤務を経て作家に。1989年「静かな家」で第101回芥川賞候補。1990年「奇術師の家」で第1回朝日新人文学賞受賞。1991年「別々の皿」で第105回芥川賞候補など。

2000年頃から俳句を作り、『俳壇』などに作品を発表。2004年の腎臓移植後、2006年に個人誌『花眼』を発行。著書に『奇術師の家』(朝日新聞社)、『雪の絵』『公園』『動く箱』(新潮社)、『水の出会う場所』『菜飯屋春秋』『夢の家』(駒草出版)がある。2021年8月に腎不全のため死去。

 

坂を下りてくる人
魚住 陽子 (著)

ここにいないものを ここで想うということ── 『水の出会う場所』や『菜飯屋春秋』で知られ、2021年に急逝した作家、魚住陽子が遺した個人誌『花眼』(ホゥエン)からの短編集。

 


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