芸術選奨新人賞&角川財団学芸賞W受賞!山本聡美さん〈朽ちてゆく死体の美術史〉『九相図をよむ』をオールカラーで文庫化
山本聡美さんによる、芸術選奨新人賞ほか受賞の選書をオールカラーで文庫化した『カラー増補版 九相図をよむ 朽ちてゆく死体の美術史』が角川ソフィア文庫より刊行されました。
怖い、でも目を逸らせない──。「死」を直視する異色の絵画「九相図」の謎に迫る
九相図(くそうず)は、腐敗し白骨化してゆく亡骸の変化を、九つの段階で描く絵画です。仏教とともに日本へ伝わり、私たちの文化に深く根を下ろした九相図は、1500年の時を超えて、数多くの名品を生み出しました。
精気みなぎる鎌倉絵巻から、土佐派や狩野派による新展開、漢詩や和歌との融合、絵解きと版本による大衆化、そして河鍋暁斎や現代画家たちによる継承と創造へ――。
本書は、その豊かな広がりを探求する美術史の刺激的な研究成果です。
主要な10作品の全図、豊富な挿図をカラー掲載
【本文「序」より】
一九九〇年代初頭、大学で日本美術史を学んでいたある日。私はひとつの中世絵画に出会った。講義室のスクリーンに映し出された「九相図巻」(鎌倉時代、九州国立博物館蔵)。死体が黒ずみ、膨脹し、腐乱し、犬や烏からすが貪むさぼり喰く う画面が連続する絵巻。日本の宗教美術に関して、神仏を描く優美な作品群を通じた印象しか持っていなかった私は、「九相図巻」に眼をうばわれた。
凄惨な主題であるにもかかわらず、その絵は圧倒的な美しさもたたえていた。現実感を伴った人体のフォルム、流麗な線描、点描画法を用いた彩色。細部の描写には、描かれているのが死体であることを忘れさせるほどの精気が宿っている。鎌倉時代にこんな絵が描かれていたなんて──日本美術のすごさに、そのとき気づいた。
【本文「序」より】
西域から中国を経て日本へ、東漸する仏教とともに一五〇〇年以上の時を超えて継承されたこの絵に祈りや願いを込めた多くの人々がいた。死体を描いた九つの相を凝視することで、生命のあやうさへの戸惑いや畏おそれが心を捉とらえる。九相図の向こう側には、生と死に対する諦念の思想が像を結ぶいっぽうで、相反する生への強い執着も見え隠れする。それはかつて九相図を見た人々の想いでもあり、今ここでこの絵を見ている自分自身の想いとなってたち現れる。
<本書の概要>
腐敗し白骨化してゆく亡骸の変化を、九つの段階で描く九相図。仏教とともに伝来し、日本に深く根を下ろしたこの不浄の絵画は、無常なる生命への畏れ、諦念、執着を照らし出す。精気みなぎる鎌倉絵巻から、土佐派や狩野派による新展開、漢詩や和歌との融合、絵解きと版本による大衆化、そして河鍋暁斎や現代画家たちによる継承と創造へ――。芸術選奨新人賞・角川財団学芸賞ダブル受賞作に補遺を付し、全作品をカラー掲載する決定版。
※「九相図巻」「九相詩絵巻」図版出典:ColBase(https://colbase.nich.go.jp/)
本書の構成
序 九相図の一五〇〇年
第一章 九相図とは何か
第二章 九相図の源流──西域・中国から古代日本まで
第三章 中世文学と死体
第四章 「九相図巻」をよむ──中世九相図の傑作(一)
第五章 国宝「六道絵」の「人道不浄相図」をよむ──中世九相図の傑作(二)
第六章 「九相詩絵巻」をよむ──漢詩・和歌と九相図の融合
第七章 江戸の出開帳と九相図
第八章 現代によみがえる九相図
おわりに
補遺 朽ちてゆく死体の図像誌──戦の時代の九相図
文庫版あとがき
図版協力
参考文献一覧
著者プロフィール
著者の山本聡美(やまもと・さとみ)さんは、1970年生まれ、宮崎県出身。早稲田大学文学学術院教授。専門は日本中世絵画史。 早稲田大学大学院文学研究科博士後期課程単位取得満期退学。博士(文学)。 大分県立芸術文化短期大学専任講師、 金城学院大学准教授、共立女子大学准 教授・同教授を経て、2019年より現職。
『九相図をよむ 朽ちてゆく死体の美術 史』(角川選書)で平成27年度芸術選 奨文部科学大臣新人賞・第14回角川財 団学芸賞を受賞したほか、著書に『闇 の日本美術』(ちくま新書)、共編著に『国宝六道絵』(中央公論美術出版)、 『九相図資料集成 死体の美術と文学』 (岩田書院)などがある。
増補カラー版 九相図をよむ 朽ちてゆく死体の美術史 (角川ソフィア文庫) 山本 聡美 (著) 「死を想え」とささやく、不浄と無常の日本絵画史 |
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