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「虐待した親」を支援する先駆者・宮口智恵さん『虐待したことを否定する親たち』が刊行

宮口智恵さん著『虐待したことを否定する親たち 孤立する親と子を再びつなげる』

宮口智恵さん著『虐待したことを否定する親たち 孤立する親と子を再びつなげる』

「虐待した親」を支援する先駆者・宮口智恵さん著『虐待したことを否定する親たち 孤立する親と子を再びつなげる』がPHP研究所より刊行されました。

本書は、これまで見過ごされてきた虐待する「親」への支援として、「親子関係再構築プログラム」を提供しているNPO団体「チャイルド・リソース・センターの代表である宮口智恵さんの初の著書です。宮口さんは、これまで250組以上の親子関係の修復に尽力してきました。 虐待が起こる理由や親の心理、そして虐待を止めるプロセスを、リアルな事例をもとに解説します。  

 

子どものために親を支える場所が必要

令和3年度中に、全国225か所の児童相談所が児童虐待相談として対応した件数(速報値)は207,659 件で、過去最多を記録しました。これは、前年度比で5.8%増、20年前との比較では、なんと11.5倍以上です。

 
本書の著者である宮口智恵さんは、かつて児童相談所の児童福祉司として15年間勤務していました。そこで出会った「虐待する親」の多くは、誰にも支えてもらえず、たった一人で子どもを育てているという過酷な状況でした。

しかし、子どもの安全が最優先となる児童相談所では、親への支援が乏しいのが現状です。支援する側にとっても、「虐待の問題」に一人で立ち向かうのは容易ではありません。親子支援の活動を始めて15年経ても、「親への支援」は未だに市民権を得ていません。この問題に、社会全体で取り組むきっかけになればとの強い思いから、本書を上梓したのです。

 
《「子どもを育てるのは一人では無理、親が子どもを支えられるように、誰かが、そして社会が親を支える――。」これが社会の共通認識になってほしいと、切に願うのです。》
(「はじめに」より)

 

虐待した親とされた子どもをつなぐプロセスを解説

虐待した親の多くは、「これはしつけです」と口をそろえます。自分が手を上げてしまったのにも関わらず、いざわが子が児童相談所に預けられてしまうと、孤独と恐怖に襲われ、「私は虐待していません」と言い張るのです。宮口さんは、この言葉の裏にある親のニーズに意識を向け、子育てをやり直したい、いい親になりたいという思いに寄り添います。

 
宮口さんが立ち上げたNPO団体チャイルド・リソース・センターは、児童相談所では見過ごされてきた虐待する「親」への支援として、「CRC親子プログラムふぁり」を提供しています。このプログラムは、関係が崩壊した親と子の対話と交流を、第三者がサポートするものです。

本書では、著者が実際に関わった事例をもとに、新たな親子関係が構築されるプロセスを紹介しています。

 
<本書で取り上げる虐待のケース>

◆ずっと泣き止まない2歳の男の子を母親が叩き、布団をかぶせる。
(背景)夫の激務、親も頼ることができず、ずっと一人で子育てをしてきた。

◆食事中にふざけていた4歳の女の子を母親が拳で殴り、その勢いで椅子が倒れて額を床にぶつけ、
目が開かなくなる。
(背景)育児への疲弊、夫や姑からの理解なし。

◆栄養状態が悪く、皮膚トラブルも多い生後9か月の女の子へのケアができず、育児放棄を繰り返
す。
(背景)夫が非協力的、母の精神不安定状態。 ほか

 

著者プロフィール

著者の宮口智恵(みやぐち・ともえ)さんは、神戸大学大学院総合人間科学研究科前期博士課程修了。児童相談所で勤務後、2007年に(特)チャイルド・リソース・センターを設立。21年より認定NPO法人。同法人は設立時より、児童相談所の委託を受けて、虐待などの育児に困難を抱える親とその子どもに「親子関係再構築プログラム」を提供する活動を開始。日本初の取り組みであり、これまで250組以上の親子にプログラムを提供した。

著書に『虐待する親への支援と家族再統合』(共著/明石書店)。

 

虐待したことを否定する親たち 孤立する親と子を再びつなげる (PHP新書)
宮口 智恵 (著)

「早くして。何分かかってるの!?」「何よ、その目……」。四歳の娘マミちゃんの食事の時にイライラしてしまった咲希さんは、思わずマミちゃんを拳で叩いてしまいます。その拍子に椅子が転倒し、マミちゃんの額には痣が……。その痣を保育園が発見し、児童相談所によりマミちゃんは「保護」されることに。児童相談所で咲希さんは「あれはしつけだ」と言って虐待を認めません。この時、咲希さんは心の中で何を求めているでしょうか。支援者が彼女に対してできることは、何でしょうか。
虐待した親と、その子を再び結びつける活動を行っている著者が、親子の「安心基地」をつくるために必要なことを語ります。
たとえば、虐待した親とのコミュニケーションでは、中途半端なスキルを使っても、親との「回路」を開くことはできません。ここで言う「回路」とは、親と対話ができる、お互いに話を聞くことができる信頼関係といった意味です。
① 「子どもってね、〇〇ですよね」と一般化する/② 「よく頑張っているね。すごいね」と褒めるように心がける/③十分に話を聞かずにアドバイスをする/④ 「また言ってるな」と取り合わないようにする/⑤よくわかってもらうようにと、丁寧な説明を頻繁にする/⑥ 傾聴に終始する
これらは支援者が日常的に使っている支援のスキルです。ですが、実は「親との『回路』のできない働きかけ」です。このような対応は親とのつながりを生まず、親と支援者とを遠ざけます。
では、支援者はどのように親や子に接するのが望ましいのか。児童虐待に携わる仕事をされている方はもちろんのこと、一般の家庭や学校、さらには職場のコミュニケーションにおいても大切な「観察」の習慣について、多くの困難を経験した上で得た知見を伝えます。

 


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