本のページ

SINCE 1991

「マカロニえんぴつ」はっとりさんによる燃え殻さん『これはただの夏』の書評全文を特別公開! 大橋裕之さんはアナザー・ストーリー的なマンガを公開!

燃え殻さん著『これはただの夏』(新潮社)

燃え殻さん著『これはただの夏』(新潮社)

「この切なさは、事件だ」「大人泣き小説」等々と大評判となり、単行本や文庫刊行時には、あいみょんさんらを虜にした小説『ボクたちはみんな大人になれなかった』から4年――。
燃え殻さんの小説第2弾『これはただの夏』が7月29日に刊行されます。

これに先駆けて、新潮社の月刊誌『波』(7月27日発売)に掲載の、「マカロニえんぴつ」のはっとりさんの書評が特別公開されました。

また、大橋裕之さんによるアナザーストーリー的なマンガも公開中です。

 

「マカロニえんぴつ」はっとりさんの書評を全文公開!

マカロニえんぴつは、いま最も注目されている「全年齢対象ポップスロックバンド」。テレビ東京系アニメ『ドラゴンクエスト ダイの大冒険』の「生きるをする」や、TBS系情報番組『王様のブランチ』テーマソング「好きだった(はずだった)」などで一度は必ず耳にしたことがあるはず。はっとりさんは「マカロニえんぴつ」のヴォーカルとギター担当で、大半の曲を作詞・作曲しています。

マカロニえんぴつ はっとりさん

マカロニえんぴつ はっとりさん

(書評全文)

燃え殻さんの言葉はやさしい。この場合「優しい」と「易しい」だ。彼はいわゆる本の虫だったわけでなく、むしろ活字が苦手な方だったと何かで話していた。何度も同じ行を読み返してしまったり、途中で音を上げて栞を挟んだきりなんてざらだったと。だからか、と腑に落ちた。胸を打つtwitter投稿の数々が話題となった彼の小説には、140文字のツイートのリズムそのままが絶えず走っている感じがあった。拍子抜けする妙な間奏も難解な展開もない彼の文章は非常にノリやすく、一冊まともに読み切れたことのない同じ側の自分には優しくて、易しかった。もともと落ちこぼれだった先生は教え方が上手い、に近い。できない生徒の気持ちがよく分かる。

リズムもそうだし、リアルもある。小気味良く〝事件〟が毎ページで起きてくれるのだけど、小さな嫌な予感が的中して降ってくるのはやはりそれに見合った小さな事件で。それが絶妙にリアルなのだ。人生に、というか生活に大事件はさほど頻繁に起きないし起きてほしくないけど、なんとなく人並みに散々な目には遭っていたい。多くの人間がそういう情けない価値観を小脇に抱えて暮らしている。自ら受け入れたはずのその人並みの不幸の連続に縛られ、あるいは他者に付け込まれてだんだんと身動きが取れなくなっていく主人公の姿がたまらなく愛おしいのだ。だって、自分なんだもん。あの日の、そして今日までのやるせない自分そのもの。そうやって読む人すべてを【自分ごと】にさせてしまうのが燃え殻さんの小説の魅力であると感じる。

 
『これはただの夏』

 
今作を一晩で読んだ。読めてしまった。リズムとリアルに没入していたら明け方だった。

 
いつか平沢進氏が「僕の音楽を誰かに無理に勧めるようなことはしないでほしい。人にはそれぞれ出逢うベストなタイミングと手に取る準備があるから」というようなことを口にしていて、以来それを僕は肝に銘じているのだが、この本を読み終えた直後は今すぐ他の誰かにおしえたくなった。「あんたも手遅れになる前に早く」って、急いでおしえたい夏だった。

知人の結婚披露宴で出会った優香、ある雨の日に出会った小学生の明菜、仕事先の先輩であり長年の悪友である大関、そしてボク。4人の短い夏が本作では描かれる。皆それぞれが問題を抱えながらも引き際や諦めを知って緩やかに平凡を生きているが、じつはボクにも他の3人にも制限時間のある夏だった。彼女たちが暗示しているヘルプに気づきながらもボクはモタつき、どの事情とも深くは交われずにいる。ようやく素直に向き合おうと覚悟したときには、夏は終わっていた。

この作品からは場面ごとに多様なメッセージが見出せる。胸がひりつくピークも読んだひとによって異なりそうだ(僕の場合は終盤の大関との電話のシーンだった)。いい意味で全体が〝散らかって〟いて、それが物凄くリアルな夏の湿度を描いている。自分の夏の記憶を辿れば、ノボせたうだる日々の情景がパッチワーク状に繋ぎ合わさって浮かび、そこらじゅうに未だ清算できていない後悔が落ちている。そういえばどの夏にも制限時間があったし、いつも少し間に合わなかった。そうなんだ。夏は迎えるたび、そして越えるごとに何故だか散らかっていく。

あの夏、素直に会いに行ってただ一緒に泣いてやればよかった。本当はそうしたかったのにできなかった全てのボクは、この小説を読んで【自分ごと】にせずにはいられないだろう。前作『ボクたちはみんな大人になれなかった』は全力で独り占めしたかったのに対し、この小説は、ここに描かれている数日は、今すぐ誰かに伝えたくなる。
「もう遅いと思うには、きっとまだ早い」と。

(はっとり ミュージシャン)

――新潮社月刊誌『波』(7月27日発売)より

 

似顔絵が似すぎていると話題の大橋裕之さんがアナザー・ストーリー的なマンガを特別公開!

新潮社の月刊誌『波』(7月27日発売)掲載の、大橋裕之さんが描いたアナザーストーリー的なマンガも特別公開中です。

 
大橋裕之さんは去年、大橋さんのマンガ『音楽』がアニメ映画化、『ゾッキ』が竹中直人さん×山田孝之さん×斎藤工監督によって実写映画化された「孤高の天才漫画家」です。

燃え殻さんの連載エッセイ「それでも日々はつづくから」(『週刊新潮』掲載)のイラストも担当、「大橋さんの描く燃え殻さの似顔絵は似すぎている」「そっくり!」と好評を博しています。

もしかしたらただの夏じゃない?アナザーストーリーその1『これはただの夏』(C)大橋裕之

もしかしたらただの夏じゃない?アナザーストーリーその1『これはただの夏』(C)大橋裕之

もしかしたらただの夏じゃない?アナザーストーリーその2『これはただの夏』(C)大橋裕之

もしかしたらただの夏じゃない?アナザーストーリーその2『これはただの夏』(C)大橋裕之

もしかしたらただの夏じゃない?アナザーストーリーその3『これはただの夏』(C)大橋裕之

もしかしたらただの夏じゃない?アナザーストーリーその3『これはただの夏』(C)大橋裕之

もしかしたらただの夏じゃない?アナザーストーリーその4『これはただの夏』(C)大橋裕之

もしかしたらただの夏じゃない?アナザーストーリーその4『これはただの夏』(C)大橋裕之

 

これはただの夏
燃え殻 (著)

その瞬間、手にしたかったものが、目の前を駆け抜けていったような気がした。
「普通がいちばん」「普通の大人になりなさい」と親に言われながら、周囲にあわせることや子どもが苦手で、なんとなく独身のまま、テレビ制作会社のテレビ制作会社の仕事に忙殺されながら生きてきてしまった「ボク」。取引先の披露宴で知り合った女性と語り合い、唯一、まともにつきあえるテレビ局のディレクターにステージ4の末期癌が見つかる。そして、マンションのエントランスで別冊マーガレットを独り読んでいた小学生の明菜と会話を交わすうち、ひょんなことから面倒をみることに。ボクだけでなく、ボクのまわりの人たちもまた何者かになれず、何者かになることを強要されていたのかもしれない……。

 
【関連】
燃え殻 『これはただの夏』特設サイト | 新潮社

 


コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です