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芥川賞5回ノミネートの鬼才・戌井昭人さん約3年ぶりの新作小説『壺の中にはなにもない』が刊行 ”戌井作品史上”最高のハートウォーミングな読後感

物語に登場するさまざまなモチーフが描かれた壺のイラスト。壺の形をよく見ると……(装幀:宇都宮三鈴さん/装画:北澤平祐さん)

物語に登場するさまざまなモチーフが描かれた壺のイラスト。壺の形をよく見ると……(装幀:宇都宮三鈴さん/装画:北澤平祐さん)

戌井昭人さんの約3年ぶりの新作小説『壺の中にはなにもない』が、NHK出版より刊行されました。戌井さんならではの世のおかしみに向けた眼差しと疾走感あふれる筆致でユーモラスに描いた至極の大衆小説で、笑いに笑って、少ししんみりして、最後に心が温まる物語です。

 

真骨頂にして新境地を切り拓く、ハートウォーミングな物語

作家として数々の小説を世に送り出し、川端康成文学賞や野間文芸新人賞を受賞し、芥川龍之介賞では過去5回のノミネートの実績を持つ戌井昭人さん。

市井の人々、特に、世間の尺度からほんの少しだけはみ出た“アウトロー”な人々に目を向け、そこで営まれる日常のおかしみや直面する不条理をユーモラスに描くことで、多くのファンを獲得してきました。

 
約3年ぶりの新作小説『壺の中にはなにもない』でも戌井節はもちろん健在!疾走感のある展開や、小気味のいい会話、ひと癖もふた癖もある登場人物たちは、まさに戌井ワールドそのもの。

しかし、本作がそれにとどまらないのは、主人公を取り巻く人々の優しさや他者との関係性の中で生まれるぬくもりの濃密さです。

 
主人公の勝田繁太郎(26歳)は、穏やかな生活を求めてマイペースにすごすあまり、他者への関心や気遣いを意識せず、仕事にも趣味にも恋愛にも意欲がありません。そのまま大人になってしまったがゆえに、周囲とのトラブルをしばしば引き起こしてしまいます。
しかし、裏表のない繁太郎に人間性の本質を感じている祖父と、繁太郎のキャラクターを“個性”として好ましく思う新人ホステスとの交流によって、繁太郎は自らの内面に少しずつ変化を感じていきます。

物語を通して投げかけているのは、「自己と他者との関わり」や「自分という存在」といった、昨今問い直される社会における多様性のあり方。
戌井さんの物事への複眼的な鋭い眼差しが、主人公と周囲の人々とのやりとりのなかで時に辛辣に、時に温かみを伴って随所に表れています。

繁太郎と彼の周囲の人々とのやりとりにくすっと笑ったり、思いのこもった言動に胸がじんわりと温まったり、思いがけない展開にはっとしたり。過去の戌井作品以上のハートウォーミングな読後感が本作の大きな特徴のひとつです。

 
<あらすじ>

勝田繁太郎は、仕事にまるで意欲がなく、これといった趣味もなく、恋愛経験はゼロで、平穏に過ごす日常を愛する男。人に気を遣うことができず、仕事でミスをくり返しても気にしないマイペースさゆえ珍事が尽きず、周囲からは疎まれていた。しかし、破天荒ながら高名な陶芸家として知られる祖父だけは繁太郎の人間性に好感を抱き、彼の陶芸の才能を見出していた。なんとかして陶芸への興味を引き出し、あとを継がせようと画策する祖父の思惑は果たされるのか。そして、繁太郎が成長する日は訪れるのだろうか――。

 

戌井ファンの著名人たちが寄せた個性豊かなコメントの数々

帯に掲載されている、各界の著名人たちによる個性的なPRコメントも一見の価値ありです。

各界の著名人たちからの熱く、濃いコメントが集まった帯

各界の著名人たちからの熱く、濃いコメントが集まった帯

作家としてはもちろん、パフォーマンス集団「鉄割アルバトロスケット」の主宰としても活躍している戌井さん。公演はつねに超満員で、お客さんは演劇ファンのみならず多方面の著名人たちからも厚い支持を集めています。

そんな戌井さんとその作品の魅力を伝えるべく、本作の刊行に寄せて、浅田政志さん(写真家)、伊賀大介さん(スタイリスト)、大森立嗣さん(映画監督)、髙城晶平さん(cero)、高橋久美子さん(作家・作詞家)、豊崎由美さん(書評家)、中原昌也さん(作家)、湯浅学さん(音楽評論家)からPRコメントが寄せられ、帯に掲載されています。

 
寄せられたコメントは、帯を見た人が「これはいったいどんなストーリーなのか……」とさまざまに想像をめぐらす姿を予想できるような非常に個性豊かなものばかり。それはまさに戌井さんを深く知る方々の“戌井愛”のなせるわざです。

 
実はこれらのコメントは、《タイトル》《あらすじ》《鉄割アルバトロスケットの舞台上の戌井昭人さんのイメージ》をヒントに、大喜利のようにストーリーを想像して自由に寄せられたもの。

その目的は、帯のコメントに何か引っかかった人はページをめくってどんな内容かを実際に確認して楽しんでもらえたら、との思いから生まれたPR企画です。

 
なお、帯にコメントを寄せた伊賀大介さんと戌井さんによる対談が、WEB「NHK出版 本がひらく」(https://nhkbook-hiraku.com/)で11月4日(水)に公開予定です。
本作のこと、戌井さんのこと、ふたりの思い出などについて語っています。

 

著者プロフィール

著者の戌井昭人(いぬい・あきと)さんは、1971年生まれ、東京都出身。玉川大学文学部演劇専攻卒業。小説家、劇作家。

文学座を退所後、1997年に劇団「鉄割アルバトロスケット」を旗揚げ。2008年、『新潮』掲載の「鮒のためいき」で小説家デビュー。2014年「すっぽん心中」で川端康成文学賞、2016年『のろい男 俳優・亀岡拓次』で野間文芸新人賞をそれぞれ受賞。

主な著書に『まずいスープ』『ぴんぞろ』『ひっ』『どろにやいと』『ゼンマイ』などがある。2020年12月、『さのよいよい』が発売予定。

 

壺の中にはなにもない
戌井 昭人 (著)

破天荒な陶芸家の祖父との交流と、26歳にして訪れた初恋に、笑って、笑って、少ししんみりして、そして心が温まる。
疾走感溢れる筆致でユーモラスに描く、鬼才・戌井昭人の真骨頂にして新境地を拓く、至極の長篇大衆小説。

数々の事業を立ち上げて財を成した曽祖父、高名な陶芸家として知られる祖父、考古学者で大学教授の父。そんな一家にして勝田繁太郎(26歳)は、趣味もなく、働く意欲もなく、恋人もいない、ただのんびり平穏な生活を過ごすことが楽しみな男だった。いつもピントがずれていて、人に気を遣えず、仕事でミスをくり返しても微塵も気にしないマイペースさゆえ、周囲からは疎まれていた。
しかし、祖父・繁松郎だけはそんな繁太郎の人間性を気に入り、ことのほか愛情を注いでいた。それは、繁太郎の陶芸の才覚を見出し、後を継がせたいと考えていたためでもあった。祖父はことあるごとに繁太郎の世話を焼き、興味を引き出そうと試みるものの、当の本人にはまるでその気がない。
そんなある日、祖父とともに銀座の高級クラブ「ギャランコロン」を訪れた繁太郎は、そこのホステス・ミナミに出会う。ミナミが繁太郎に好感を持っていることを察した祖父は、繁太郎とミナミをくっつけようと、繁太郎とミナミ、そして自分とクラブのチーフママであり愛人の蘭の4人で茅ヶ崎にある別荘へ旅行する計画を立てる。繁太郎以外の3人は楽しみに胸を膨らませるが、果たして祖父の思惑どおりに事態は進むのか? そして、繁太郎の成長のときは果たして訪れるのか――。

 


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