白石一文さんが愛の持つ本質的な痛みを問う『代替伴侶』が刊行
『ほかならぬ人へ』『翼』『火口のふたり』など、愛の本質を問い続ける名手、白石一文さんの書き下ろし長編小説『代替伴侶』が筑摩書房より刊行されました。
愛する彼女がいなくなったこの世界に、もはや僕の生きる意味はない――。
本書は、人口が爆発的に増え、「代替伴侶法」が施行された近未来が舞台。伴侶を失い精神的に打撃を被った人間に対し、最大10年間という期限つきで、かつての伴侶と同じ記憶や内面を持った「代替伴侶」が貸与されることとなりました。
それは「あり得た夫婦のかたち」を提示すると同時に、愛の持つ本質的な痛みを炙り出すことともなるのでした――。
【あらすじ】
不妊で悩んでいた隼人とゆとりの夫婦。ある日、ゆとりは隼人に別の男性との間で妊娠したことを告げ、隼人の元を去ってしまう。
失意の隼人は「代替伴侶」の貸与を人権救済委員会に申請し、それ以後隼人はゆとりの記憶を複写された「代替伴侶」と生活を共にする。
ところが、今度は隼人が「代替」のゆとりの許を去ることになる。すると「代替」のゆとりはなんと隼人の「代替伴侶」を申請し、それが委員会に認められてしまう。こうして元の夫婦二人の関係は破綻したが、代わりに「代替」同士が共に仲睦まじく暮らすという皮肉な状況が出来する。そもそも「代替」の二人には、自分たちが「代替」であるという自覚が持てないようにプログラミングされているのだ。
その様子を見ながら生身の隼人とゆとりは、あらためて自らの夫婦のかたちが当初から大きく変質してしまったことを思い知り衝撃を受ける。
「代替」の二人の関係は、あり得た未来の、もうひとつの自分たちの姿なのだ。
そして「代替伴侶」には、始動から10年という期限が設定されていた。まず「代替」のゆとりが死を迎えた瞬間に、生身の隼人はある決意をする――。
著者プロフィール
白石一文(しらいし・かずふみ)さんは、1958年生まれ、福岡県出身。早稲田大学政治経済学部卒業。文藝春秋勤務を経て、2000年『一瞬の光』でデビュー。
2009年『この胸に深々と突き刺さる矢を抜け』で第22回山本周五郎賞、2010年『ほかならぬ人へ』で第142回直木賞を受賞。他の著作に『不自由な心』『すぐそばの彼方』『僕のなかの壊れていない部分』『草にすわる』『どれくらいの愛情』『この世の全部を敵に回して』『翼』『火口のふたり』『記憶の渚にて』『光のない海』『一億円のさようなら』『プラスチックの祈り』『ファウンテンブルーの魔人たち』『我が産声を聞きに』『道』、『松雪先生は空を飛んだ』、『かさなりあう人へ』、『投身』『Timer 世界の秘密と光の見つけ方』など多数。
代替伴侶 白石 一文 (著) |
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