3人の少女の中身が入れかわる? 第12回ポプラズッコケ文学新人賞大賞受賞作『もしもわたしがあの子なら』が刊行
ポプラ社は「第12回ポプラズッコケ文学新人賞」大賞受賞作を書籍化した、ことさわみさん著『もしもわたしがあの子なら』(絵:あわいさん)を刊行しました。
目立つのが怖い、すべてが平凡なわたしと、美少女で人気者のあの子、クラス1の嫌われ者のあの子――少女3人の「入れかわり」がつなぐ、友情と自分らしさの物語
本作は、少女3人による「入れかわり」の物語です。2人の入れ替わりものはありますが、3人が入れ替わる作品は希少です。今重要視されている「エンパシー」(意見の違う相手を理解する能力)を体得しつつ、改めて自分自身のありのままの良さにも気づける内容です。
ライトな読み口とテンポのよい展開で、いい意味で「マンガみたいなストーリーだな。でも何だかおもしろいぞ」とはポプラズッコケ文学新人賞特別審査委員の宮川建郎さんの評です。
【あらすじ】
平凡な自分にモヤモヤとした気持ちを抱えていたひとみは、交通事故に遭い、クラス1の美少女で人気者のしずかになっていました。
驚くひとみのもとに、天使が現れ「なりたい人が一致した3人が同じ事故に遭ったから希望を叶えた」と説明します。
ひとみはしずかに憧れていたが、しずかがなりたかったのはクラス1の嫌われ者、押川さん。
しずかは周りを気にせず自分を貫く押川さんに憧れていたのです。
一方、押川さんがなりたかったのは、どこから見ても平凡なひとみ。
ひとみはしずかに、しずかは押川さんに、押川さんはひとみになって1週間をすごした後、今度は2度目の入れ替わりが起こります。
ひとみは押川さんが自分が好きな人気漫画家だと知り、仲が深まる3人。
しかし、この入れ替わりには理由があったのです……。
第12回ポプラズッコケ文学新人賞の選考について
今回は一般応募、ウェブ応募と合わせて総数168編の応募があり、その中から10作品が2次選考へ進みました。5名のポプラ社編集者が議論を重ねた結果、最終選考に5作品が選出されました。
2021年、那須正幹さんのご逝去にともない、最終選考には前回に引き続き、「ズッコケ三人組の大研究」シリーズ、那須さんの追悼本である『遊びは勉強 友だちは先生』の編者である児童文学研究者の宮川健郎さんを迎え、同社社長、編集本部長、児童書編集グループ長ほか、計13名の選考委員が選考にあたりました。
作者の児童文学への意欲や、作品に込めた思いを読み解きながら、「ポプラズッコケ文学新人賞」にふさわしい作品とはどのような作品かと、議論を深めた結果、「今の時代の子どもたちに向けて」児童文学を書ける作者による新しい作品とのことで、ことさわみさんの「天使の恩返し」(応募時タイトル)が大賞に選出されました。
<特別審査委員 児童文学研究者・宮川建郎さんの総評より>
『もしもわたしがあの子なら」(応募時タイトル「天使の恩返し」)は、現代の『とりかえばや物語』です。平安時代末期に成立したという古典の『とりかえばや』は男児と女児の2人が入れ替わる物語でしたが、これは、天使の手配で、3人の女子中学生が、なんと2回にわたってチェンジします。作者は、この複雑でボリュームのある長編を、3人のうちで一番平凡な「ひとみ」の語りで書き切る筆力の持ちぬしです。物語が語り終えられたとき、入れ替わりによって、3人それぞれが心の奥にかかえ込んでいたもの、願っていたことが明らかになったのでした。
私は、最初に読んだとき、「マンガ」みたいなストーリーだな、でも、何だかおもしろいぞと思いました。「マンガ」というのは、決して、けなしことばではありません。「小説」のように書いたら、前後の「整合性」や「リアリティー」といった問題に足をとられて、この奇想天外な物語を書き終わることができなかったかもしれません。作者のこのおおらかで楽しい書きぶりをさらに生かして、受賞作が単行本になるようにと祈ります。
著者プロフィール
■作:ことさわみさん
1977年生まれ、愛知県出身。茨城県在住。幼少期から読むことも書くことも好きで、物語を思いつくとノートに書き留めていた。第12回ポプラズッコケ文学新人賞大賞を受賞し、本作でデビュー。
■絵:あわいさん
1981年生まれ、東京都出身。イラストレーター。2018年頃から女性をモチーフにしたイラストレーションを描き始める。書籍装画を中心に広告、似顔絵なども手掛ける。
ズッコケ文学新人賞について
子どもが自分で考え、動き、成長する物語。子どもたちが自分で選び、本当に読みたいと思える物語。そんな作品を子どもたちに届けられる新たな書き手に出会えるよう、2011年にスタート。子どものための文学の未来を担う、才能ある新人がはばたく窓口として開催を重ねています。
なお、「ポプラズッコケ文学新人賞」という名称での募集は今回で最終となります。しかし、「ズッコケ三人組」のように子どもたちがお腹をかかえて、笑い、そして心から泣ける作品を目指すところは引き継ぎ、あたらしい文学賞を検討中です。
もしもわたしがあの子なら (ノベルズ・エクスプレス) こと さわみ (著), あわい (イラスト) 平凡な自分にモヤモヤとした気持ちを抱えていた中学2年生のひとみは、交通事故に遭い、気づいた時にはクラス1の美少女で人気者のしずかになっていた。そしてしずかはクラス1の嫌われ者押川さんに、押川さんはひとみになっていて……。接点がなかったクラスメイト3名が入れ替わることで、他人の苦労や葛藤を知り、相手も自分も“ありのまま”を肯定できるようになる物語。最終選考会で満場一致の、第12回ポプラズッコケ文学新人賞大賞受賞作! |
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