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クマ研究のパイオニアが体を張ったフィールドワークとクマのリアルを語る『ある日、森の中でクマさんのウンコに出会ったら』が刊行

イラスト:帆/デザイン:佐藤亜沙美

イラスト:帆/デザイン:佐藤亜沙美

国内外でのフィールドワークによって日本のツキノワグマ研究をリードしてきた東京農工大大学院教授・小池伸介さんの自然科学エッセイ『ある日、森の中でクマさんのウンコに出会ったら~ツキノワグマ研究者ウンコ採集フン闘記』が辰巳出版より刊行されました。

森や山で集めた野生動物のウンコは3000個以上。吹き矢でクマを眠らせ、断崖絶壁をよじ登り、高所恐怖症なのに小型飛行機に乗り、捕獲しようとしたクマに返討ちにされる……。ユーモアたっぷりに試行錯誤の研究人生を振り返り、最新研究から見えてきたクマの本当の姿や人間との共存について語ります。

 

クマのウンコとともに歩んだ研究者の道のり

1999年夏、東京農工大の学生だった小池伸介さんは、野生のツキノワグマが何を食べているかを調べて卒論を書こうと、山梨県・御坂山地でウンコを探し回っていました。苦心の末に最初の1個を見つけてから25年間、東京都の奥多摩や栃木県の足尾・日光周辺からアメリカ、ロシアなどにもフィールドを広げ、クマのウンコを拾い続けてきました。

 
これまでに拾った数は、論文になったクマのウンコだけで2580個。論文にならなかったものや他の動物のものを合わせるとゆうに3000個を超えるといいます。その中身を分析する「糞分析」の地道な積み重ねと、クマのウンコをめぐる様々な調査・実験によって、小池さんはクマの生態だけでなく、植物とクマの関係、森林全体においてクマが果たしている役割を明らかにしていくのでした。

 
小池さんの新刊『ある日、森の中でクマさんのウンコに出会ったら』ではそうした発見にいたるプロセスや試行錯誤とともに、不真面目な学生だった小池さんが卒論を書いて大学院に進み、就職・社会人生活を経て再び研究の道に戻り、今に至るまでの経緯や葛藤を、ユーモアたっぷりに振り返ります。

『ある日、森の中でクマさんのウンコに出会ったら』より

『ある日、森の中でクマさんのウンコに出会ったら』より

 

一気読み必至! 七転八倒のフィールドワーク本

小池さんの研究は野生のクマの生息地でのフィールドワークがメインです。獣道を分け入って山奥に入り、断崖絶壁をよじ登ってクマを追跡し、捕獲トラップを仕掛けて吹き矢でクマを眠らせて発信機付きの首輪を取り付け、高所恐怖症に耐えて小型飛行機に乗り、時に捕獲しようとしたクマに返り討ちに遭う……。

 
思いもしない出来事が次々に起こり、ハプニングや失敗を乗り越えて新発見にたどりつくというスリリングな展開は一気読み必至。前野ウルド浩太郎さん『バッタを倒しにアフリカへ』(光文社)、川上和人さん『鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ。』(新潮社)、田島木綿子さん『海獣学者、クジラを解剖する。』(山と溪谷社)といった動物学者の研究記に続く一冊と言えるでしょう。

『ある日、森の中でクマさんのウンコに出会ったら』より。挿絵は人気のイラストレーター/漫画家の帆さん。

『ある日、森の中でクマさんのウンコに出会ったら』より。挿絵は人気のイラストレーター/漫画家の帆さん。

 

クマ被害の報道にツキノワグマ研究者が思うこと

近年クマの目撃件数はどんどん増えていて、人口の多い郊外で目撃されることも珍しくありません。毎日のようにクマの出没がニュースになっていて、時にはいたましい人身事故が報じられることもあります。ネット上では大規模な駆除を行って、クマを絶滅させるべきという過激な主張も出るほどです。

 
しかし、クマは猛獣として怖れられる一方、生態については驚くほど知られていません。この本では、最新の研究成果だけでなく、ツキノワグマの食べ物のほとんどが植物で、大多数の個体が慎重かつ臆病で人間を避けて山奥に住んでいるなどの基本的な生態から、人間との遭遇や出没が増える理由までをとてもわかりやすく解説し、クマとの共存のあり方や人間社会がやるべきことなどを示しています。

 
また、神奈川県の動物園や秋田県のクマ牧場での調査や、栃木県・足尾日光山地でのGPSなどを使った移動距離の測定、糞分析によるウンコ1つあたりに含まれる種子の数のカウントなどといった地道な研究によって、小池さんはクマとそのウンコが森林においてどんな役割を果たしているのかを解明していきます。その研究を追うことで様々な生物種が関係し合う自然界の複雑さや生物多様性の大切さがおのずと明らかになっていきます。

 

本書の構成

1章 ウンコを集めて卒論を書く
クマのウンコは無臭ときどき食材の香り/テニスサークルで青春を謳歌しようとしたら昆虫研究会に入っていた/車で崖下に落ちそうになったけど命拾い/初めてのウンコ/ウンコまみれのリュック/ウンコは自然解凍にかぎる

2章 俺はクマレンジャー
ドラム缶の罠でクマを捕まえる/クマさんにはアポなしで会いたくない/吹き矢でケモノを眠らせろ/ハニートラップに弱いクマ/クマを追って数百キロをドライブ/クマの冬眠穴は超デンジャラス/富士吉田警察との奇妙な因縁

3章 先生!! 研究がしたいです……
クマよ、お前は本当に植物の役に立っているのか?/地元の人に怪しまれながらヤマザクラを調べる/クマはサクランボの旬を知っている/就職してもウンコ拾いがやめられない/誕生! ウンコソムリエ

4章 激闘! クマ牧場
果実がウンコになって出るまでの時間を測る方法/動物園で1日中クマの脱プンを監視する男たち/クマさんにはやっぱりハチミツ/クマのウンコサイクルがつかめてきた/子グマは「クーマ、クーマ」と鳴く

5章 タネまくクマ
ドングリにはリズムがある/クマの集団失踪事件/高所恐怖症ですが小型飛行機に乗りました/クマはフットワークとウンコの仕方が最高である/クマ研究者、大学教員になる/169時間クマの食事を監視する

6章 海外武者修行の旅
クマの寝込みを襲う修行 in USA/森の中でクマさんと出会って死にかける/ロシアのクマはトラに食われる!?/シュールストレミングの10倍臭い肉/小雪舞う川で半裸のロシア人が水ごりに誘う

7章 クマ研究最前線
クマにカメラを搭載する/動画を解析したらクマが寝てばかりだった件/3度のメシよりメスが好き!/クマを憎む学生、クマハギの謎に挑む/クマ、アヘる/毛を調べれば食生活が丸わかり/クマは秋の3ヶ月間で1年の80%をまとめ食いする

8章 クマさんのウンコと森を想う
森のウンコ・ストーカー/クマ学者ですが糞虫の実験します/クマさんのウンコは手分けして運ぶのがベスト/もっとクマを知ってほしい!/クマを滅ぼすシカ/過疎化でクマとの遭遇が日常化

 

著者プロフィール

著者の小池伸介(こいけ・しんすけ)さんは、1979年生まれ、名古屋市出身。ツキノワグマ研究者。東京農工大学大学院グローバルイノベーション研究院教授。博士(農学)。専門は生態学。主な研究対象は、森林生態系における植物―動物間の生物間相互作用、ツキノワグマの生物学など。現在は、東京都奥多摩、栃木県、群馬県の足尾・日光山地においてツキノワグマの生態や森林での生き物同士の関係を研究している。

著書に『クマが樹に登ると』(東海大学出版部)、『わたしのクマ研究』(さ・え・ら書房)、『ツキノワグマのすべて』(共著/文一総合出版)など。

 

ある日、森の中でクマさんのウンコに出会ったら ツキノワグマ研究者のウンコ採集フン闘記
小池 伸介 (著), 帆 (イラスト)

25年間にわたってウンコを拾い続け、ツキノワグマの謎に包まれた生態を明らかにしてきたクマ博士・小池伸介氏が数奇な研究人生と“クマの本当の姿”を語る自然科学エッセイ。
体を張った研究の果てに見えてきた森林におけるクマの役割と自然の神秘とは? ツキノワグマ研究者のウンコ採集フン闘記。
研究者の愛情が炸裂する動物研究記です。

 


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