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陳浩基さん『13・67』が「週刊文春ミステリーベスト10」でアジア圏作品で初の1位!「本格ミステリ・ベスト10」海外篇でも

陳浩基さん『13・67』が「週刊文春ミステリーベスト10」でアジア圏作品で初の1位!「本格ミステリ・ベスト10」海外篇でも

陳浩基さん『13・67』が「週刊文春ミステリーベスト10」でアジア圏作品で初の1位!「本格ミステリ・ベスト10」海外篇でも

華文(中国語)ミステリー最大の話題作『13・67』(陳浩基さん・著/天野健太郎さん・訳)が年末恒例の「週刊文春ミステリーベスト10」と「本格ミステリ・ベスト10」の海外篇で第1位となりました。

1977年に始まった「週刊文春ミステリーベスト10」では、これまでアジア圏の作品がベストテンにランクインしたことはなく、41年目にして初のランクインで第1位という快挙です。

 

華文(中国語)ミステリー最大の話題作『13・67』について

『13・67』は、2014年に台湾の出版社から刊行された当初から大きな評判を呼びました。台湾・香港で3つの文学賞に輝き、世界12カ国で翻訳が進められ、香港の巨匠ウォン・カーウァイ氏が映画化権を取得しています。

 
その群を抜いた推理力から「天眼」と呼ばれた香港警察きっての名刑事クワンと愛弟子のロー。

クワンはローに、警察官の本分は市民の命と安全を守ることと説き、時には我が身の危険も顧みず、違法すれすれの捜査をもいとわなかった。

雨傘革命前夜の2013年から左派(親中国側)による反英暴動が勃発した1967年へ、逆年代記(リバースクロノロジー)で語られる名刑事の事件簿から垣間見える香港現代史の光と闇――。

本格ミステリーと社会派ミステリーの融合を実現させた、稀有な傑作です。

 
著者の陳浩基さんは、2011年に『世界を売った男』(文藝春秋)で、台湾で催されている中国語で書かれたミステリーの新人賞「第2回島田荘司推理小説賞」を受賞するなど日本との縁が深く、その創作の源流は日本ミステリーにあります。

 
なお、作品の冒頭を抜粋した試し読み版や著者インタビュー、書評などを収録した作品ガイドブック『陳浩基「13・67」の魅力とは』が無料配信されています。
Amazon.co.jp: 陳浩基『13・67』の魅力とは【文春e-Books】 eBook: 陳 浩基: Kindleストア

 

陳浩基さんのコメント(週刊文春12月14日号より転載)

「今回の嬉しい知らせをいただいた時、私はシンガポール・ライターズ・フェスティバルに参加していました。その日はイギリスや地元シンガポールの著名なミステリー作家たちと、アジアとヨーロッパにおけるミステリーの作風の違いをテーマにディスカッションを行いました。

仮に英国をヨーロッパにおけるミステリーの中心地とすれば、アジアの中心は日本ということになるでしょう。『シャーロック・ホームズの冒険』をきっかけにミステリーファンとなった私ですが、ミステリーを学ぶお手本とする対象は日本の諸作品でした。

今日、私たちは翻訳を通じて様々な国の優れた作品を読み、イギリスや日本といった「先進国」の先達たちがあみだした創作技法を吸収することができます。拙作が日本語に翻訳され、日本の読者に読まれることは望外の喜びです。

皆さん、香港発の華文ミステリーを手に取っていただき本当にありがとうございます。」

 

陳浩基さんプロフィール

陳浩基(ちん・こうき)さんは、1975年生まれ。2009年、『青髭公の密室』で台湾推理作家協会賞を受賞。2011年、『遺忘・刑警』(邦題『世界を売った男』)で島田荘司推理小説賞を受賞。2014年、『13・67』を刊行し大きな話題を呼ぶ。2017年7月には新作長篇『網内人』が刊行された。

 

13・67
華文(中国語)ミステリーの到達点を示す記念碑的傑作が、ついに日本上陸!
現在(2013年)から1967年へ、1人の名刑事の警察人生を遡りながら、香港社会の変化(アイデンティティ、生活・風景、警察=権力)をたどる逆年代記(リバース・クロノロジー)形式の本格ミステリー。どの作品も結末に意外性があり、犯人との論戦やアクションもスピーディで迫力満点。
本格ミステリーとしても傑作だが、雨傘革命(14年)を経た今、67年の左派勢力(中国側)による反英暴動から中国返還など、香港社会の節目ごとに物語を配する構成により、市民と権力のあいだで揺れ動く香港警察のアイデェンティティを問う社会派ミステリーとしても読み応え十分。
2015年の台北国際ブックフェア賞など複数の文学賞を受賞。世界12カ国から翻訳オファーを受け、各国で刊行中。映画化件はウォン・カーウァイが取得した。著者は第2回島田荘司推理小説賞を受賞。本書は島田荘司賞受賞第1作でもある。

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香港ミステリー界の新鋭が描いた、警察小説の傑作

古典的(クラシカル)なのに、新鮮。技巧的(トリッキー)でいて、人間ドラマは濃密。『13・67』は、まだ一般には馴染みの薄い華文(中国語)ミステリーへの関心をぐっと高めるだろう、掛け値なしの傑作だ。

作者の陳浩基(ちんこうき)は香港ミステリー界の新鋭で、第二回(二〇一一年)島田荘司推理小説賞を受賞した『世界を売った男』がすでに翻訳紹介されている。同賞レースは中国語で書かれた本格ミステリー長編を公募するもので、最終選考には島田荘司自ら携わる。陳浩基の受賞作は、一夜明けるとなぜか六年後の未来に来ていた警察官の混乱と職分(プライド)を描いてやや才走った感はあるが、その筆力は本物にちがいないと確信させるに足る好編だった。

としても『13・67』の出来(でき)は、期待値を遥かに上回っていた。物語の主人公は、香港警察の生ける伝説、クワン警視。その卓抜な捜査能力から「名探偵」とも呼ばれるクワンがこの半世紀(一九六七年~二〇一三年)に関わった六つの難事件を、現在から過去へ、年代を溯る形式で語り連ねる。

奸智に長けた囚人の用意周到な脱走劇の顛末を描く「クワンのいちばん長い日」、犯罪グループとの真昼の銃撃戦に意外な策謀が仕込まれていた「テミスの天秤」など、推理の妙味にあふれる個々の短編の水準の高さには目を瞠(みは)るばかり。最終話「借りた時間に」の結末の余韻は格別で、なるほど一人の警官人生を逆再生していたのはまったく伊達(だて)ではない。今野敏や横山秀夫の警察小説を愛読している向きには特にオススメできる一冊だ。

香港という人口稠密(ちゅうみつ)都市の発展を写し取り、反英闘争の嵐が吹き荒れた一九六〇年代と中国復帰を経て民主化運動が澎湃(ほうはい)と沸き立つ二〇一〇年代が照応されていることも見逃してはいけない。そう、『13・67』が描く“香港の五十年”の外側には、十九世紀末から二十世紀初頭の帝国主義の時代が今日(こんにち)繰り返されているかのような“世界の百年”があるのだから。

評者:佳多山 大地
(週刊文春 2017.10.12号掲載)

 


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