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橋本治さんの幻の青春ミステリー『ふしぎとぼくらはなにをしたらよいかの殺人事件』が復刊!

橋本治さん著『ふしぎとぼくらはなにをしたらよいかの殺人事件』

橋本治さん著『ふしぎとぼくらはなにをしたらよいかの殺人事件』

昨年9月に刊行された橋本治さんの長編小説『人工島戦記 あるいは、ふしぎとぼくらはなにをしたらよいかのこども百科』の反響を受け、ホーム社は、同書と関連する世界観を持つ、長く入手困難となっていた幻の傑作『ふしぎとぼくらはなにをしたらよいかの殺人事件』を復刊しました。

1980年代の東京を舞台に、東大出のイラストレーター・田原高太郎が、鬼頭家で起こった殺人事件の謎を解く、青春ミステリーの傑作です。

 

80年代の東京を舞台に描く、橋本治さんの幻の青春ミステリー、遂に復刊!

 
【本書の内容】

僕、分ったんです。人を探るということは、実は、それと同じ分だけ、自分自身を探るということが必要なんだということに。 これが僕の探偵法、だったのです──

僕は小説家ではない。猫でもなければ杓子でもない。僕はただのイラストレーターだ。その、 猫でも杓子でもないイラストレーターの僕がなんでまた〈僕は小説家ではない〉なんてことを言い出さなければならないのかというと、それは、これから僕が小説を書こうとするからだ。
僕は小説家ではない。だから、僕の書く小説がうまく行くかどうかはよく分らない──要する に、僕はこのことを言いたかっただけなのだ。
僕は小説家ではない。それなのに僕がどうして小説を書こうとするのかというと、それには勿論、訳がある。訳というのも色々あるが、その内で一番大きいのはやはり、僕がイラストレーターだということだろう。
別に大したことではない。要するに、僕にはコネがあったというだけなのだ。
僕は別に有名な人間でもないし、大したイラストレーターでもない。そんな僕が小説を書けるとしたら、それは勿論、僕に出版社の人間との付き合いがあったということだけなのだ。
僕は仕事をしていて、その仕事の打ち合わせをしていて、「こないだねェ、ちょっとヘンなことがあったんですよ」なんてことを言った、ただそれだけなのだ。──本文より

 
<解説より>
十年の時を隔てた二つの「政治小説」──『人工島戦記』と『ふしぎとぼくらはなにをしたらよいかの殺人事件』 仲俣暁生さん

『人工島戦記』の刊行は晴天の霹靂だった。もちろんその小説の存在自体は知っていたし、地方都市を舞台とした若者たちの話であることも、どうやらとんでもなく長大な作品だということも知っていた。でも橋本治がこの作品に生涯にわたり手を入れ続けたこと、そして「あるいは、ふしぎとぼくらはなにをしたらよいかのこども百科」という副題を添えていたことは、私にとって「感動的」というしかない衝撃的な出来事だった。私はこの文章を、その「感動」をなんとか言葉にできないかと思って書いている。

早い時期からの橋本治の読者であれば、この副題から本作、つまり『ふしぎとぼくらはなにをしたらよいかの殺人事件』(1983年)をただちに思い出したことだろう。不思議な語感をもつこのタイトルは、(エピグラフにも引かれている)カート・ヴォネガット・ジュニアの小説『タイタンの妖女』に登場する 「いろいろなふしぎと、なにをすればよいかの子ども百科」という本に由来する。

1980年代初頭の東京の街を舞台とする本作(以下『ふしぎと』と略す)と、1990年代半ばの(架空の)地方都市を舞台とする『人工島戦記』。この二つの小説にはいくつか共通するモチーフがみてとれる。そしてその共通項は、たんにこの二作だけでなく、橋本治の一連の小説作品を読み解く際に、大いに意味をもつモチーフだ。

それは(1)「青春小説」であること、(2)「家族小説」であること、(3)「政治小説」であることの三点である。この共通点ゆえに、いまから約三十年前の時代を舞台とする『人工島戦記』は(そして約四十年前を舞台とする『ふしぎと』も)、きわめて「現在的な意味」をもつ作品なのだ。(……)では、これから私たちは「なにをしたらよい」のか。その答えは、十年の時を隔てたこの二つの「政治小説」のなかにすでに書き込まれている。

 

著者プロフィール

著者の橋本治(はしもと・おさむ)さんは、1948年生まれ、東京都出身。東京大学文学部国文学科卒業。大学在学中よりイラストレーターとして活躍。1977年「桃尻娘」が小説現代新人賞佳作入選。以後、小説、評論、戯曲、古典の現代語訳等幅広く活動する。

1996年『宗教なんかこわくない!』で新潮学芸賞、2002年『「三島由紀夫」とはなにものだったのか』で小林秀雄賞、2005年『蝶のゆくえ』で柴田錬三郎賞、2008年『双調 平家物語』で毎日出版文化賞、2018年『草薙の剣』で野間文芸賞を受賞。

2019年1月29日逝去。享年70。

 

ふしぎとぼくらはなにをしたらよいかの殺人事件
橋本 治 (著)

長らく入手困難だった橋本治による幻の傑作が遂に復刊!!

<既刊>

人工島戦記 あるいは、ふしぎとぼくらはなにをしたらよいかのこども百科
橋本 治 (著)

人工島?そんなのいらないじゃん

千州最大の都会である比良野市では、志附子湾を埋め立てて「人工島」を作る計画が着々と進んでいた。それを知った国立千州大学二年生のテツオとキイチは、すでにある市民運動に共感することが出来ず、新しい反対運動を立ち上げる。彼らにとって唯一ピンと来るのは、「人工島?そんなのいらないじゃん」という、そのことだけだったのだ。

大学ではテツオとキイチを中心に同好会が組織され、人工島建設への反対運動が動き始めるが、話はやがて彼らの父母、祖父 母、兄弟、近所の人々の人生にまで脱線し、街全体の歴史とそこで生きる人々の姿が浮かび上がっていく。

架空の地方都市を舞台に、戦後から平成に到るこの国の普通の人々の意識を描いた未完の大長編!!

※創作の秘密を明かす500枚を超える「人名地名その他ウソ八百辞典」、本作品の舞台である架空の街、比良野市及びその周辺について著者自身が描いた「人工島戦記地図」付。

 


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