伊藤潤二さんが「アイズナー賞」最優秀アジア作品賞を2年連続で受賞 萩尾望都さんは「コミックの殿堂」入り、タケダサナさんは最優秀ペインター/メディアアーティスト賞
アメリカ・サンディエゴで開催された「コミコン・インターナショナル」にて7月22日(現地時間)、「コミック界のアカデミー賞」と呼ばれ、過去一年間で優れた業績、活動を残した国内外のコミック作品とアーティストを表彰するアイズナー賞(The Will Eisner Comic Industry Award)の「最優秀アジア作品賞」(Best U.S. Edition of International Material-Asia)を伊藤潤二さん著『死びとの恋わずらい』の英語版が受賞しました。
伊藤潤二さんが2年連続、4度目の受賞!
伊藤潤二さんは、昨年も『地獄星レミナ』でアイズナー賞の最優秀アジア作品賞を、『地獄星レミナ』および『伊藤潤二短編集 BEST OF BEST』で最優秀ライター/アーティスト賞を同時受賞しており、2019年の「フランケンシュタイン」による最優秀コミカライズ作品賞受賞と合わせて、今回で計4度目の受賞となりました。
なお、2020年は最優秀アジア作品賞を松本大洋さんの『ルーヴルの猫』と白浜鴎さんの『とんがり帽子のアトリエ』、最優秀ユーモア賞をおおのこうすけさんの『極主夫道』が受賞、2019年には伊藤潤二さんのほかに、東村アキコさんが『東京タラレバ娘』で最優秀アジア作品賞を受賞しています。
さらに過去には、手塚治虫さん、水木しげるさん、辰巳ヨシヒロさん、浦沢直樹さん、田亀源五郎さんらが受賞しています。
<参考> アイズナー賞受賞者(抜粋)
2022 Eisner Award Winners
Best U.S. Edition of International Material――Asia
Lovesickness: Junji Ito Story Collection, by Junji Ito, translation by Jocelyne Allen (VIZ Media)
【伊藤潤二さん 受賞コメント】
この度、英語版『死びとの恋わずらい』(VIZ Media刊)にアイズナー賞を授かりました。2019年、2021年に続いての受賞に、これは夢か現かと驚いております。
しかし、これもVIZ Media様から出版していただいている一連の翻訳版の素晴らしい翻訳と装丁が、作品の価値を押し上げてくださっている結果だと思います。
『死びとの恋わずらい』は今から26年前に描いた作品です。この作品のテーマは「悩み」でした。「悩み」を具現化したような霧深い町を舞台に、この町の古くからの風習である「辻占」が起因となる事件を描きました。「辻占」は万葉集にも登場する占いの一種で、夕刻に辻に立って通行人の会話を傍から聞き、その内容から吉凶を占うというものでしたが、私は悩める人があえて通行人に直接悩みを打ち明けて、指南を乞う、という形に変えました。キーマンとして現れる謎の黒服の美少年に対して、悩み多き少女たちが理性を失うさまは、ビートルズなどのスターに熱狂する少女をイメージしました。
この作品は、当時デビューからお世話になっていた雑誌「月刊ハロウィン」が休刊となった後に、その増刊として独立した「ネムキ」誌上において心機一転、渾身の精力を注いで取り組んだ連作でした。気力体力ともに充実していた頃の作品で、私自身今も強い思い入れがあり、とても大切にしている作品です。
本作にこのような栄誉を与えてくださったアイズナー賞の選考委員の皆様に心からお礼申し上げます。そして、いつもお世話になっているVIZ Media様、朝日新聞出版様、加えていつも応援してくださっている読者の皆様に、心から感謝申し上げます。
2022年7月 伊藤潤二
<伊藤潤二(いとう・じゅんじ)さん プロフィール>
1963年7月31日生まれ。岐阜県中津川市出身。ホラー漫画家。高校を卒業後、歯科技工士学校に進み歯科技工士となるが、1986年に朝日ソノラマの少女向けホラー雑誌『月刊ハロウィン』で新人漫画賞「楳図かずお賞」が創設され、楳図さんに読んでもらいたい一念で投稿、「富江」で佳作入選した事をきっかけに漫画家デビュー。
歯科技工士として働きながら、同誌に作品を発表する生活が続いたが、3年後、歯科技工士を辞め、漫画家業に専念。以後『富江』シリーズ、『双一』シリーズ、『道のない街』、『首吊り気球』、『死びとの恋わずらい』などを執筆。1998年から小学館『ビッグコミックスピリッツ』で『うずまき』の連載を始め、その後『ギョ』、『憂国のラスプーチン』(原作:佐藤優さん、脚本・長崎尚志さん)、『溶解教室』、『人間失格』(原作:太宰治)、『幻怪地帯』などの作品を発表し続け、現在に至る。
萩尾望都さんが「コミックの殿堂」入り!
『ポーの一族』『トーマの心臓』『11人いる!』『イグアナの娘』などで知られる萩尾望都さんが、今回、長年の優れた功績により、「コミックの殿堂」入りしました。
日本人としては、手塚治虫さん、小池一夫さん、小島剛夕さん、大友克洋さん、宮崎駿さん、高橋留美子さんに続き7人目となります。
【萩尾望都さん 受賞コメント】
萩尾望都です。この度、伝統あるアイズナー賞で、2022年の「コミックの殿堂」入りという名誉をいただきました。
この素晴らしい贈り物に心から感謝いたします。
私の尊敬する漫画家は手塚治虫です。この方は2002年にコミックの殿堂入りとなりました。手塚治虫はアメリカのアニメーションに感動し、生涯漫画でその動きと美しさを追求しました。私は10代の頃、そういう手塚治虫の作品に感動して漫画家の道を目指しました。そして今、アメリカのアイズナー賞をいただいています。文化や表現はこのように派生し受け継がれていくのだと、改めて思います。
私は多くの方に感謝いたします。私を見出し、仕事をくれた編集者に感謝します。特に小学館の山本順也編集者(故人)は私を束縛せず自由に表現させてくれました。私はどこまでも、羽ばたくことができました。私の仕事のスタッフ、支えてくれた多くの友人に感謝します。また、私の日本語の作品を翻訳してくださったマット・ソーンさん始め、翻訳者の方々に感謝します。この方々の仕事のおかげで、世界の読者に私の作品を届けることができました。
そして、私の作品を読んでくださったたくさんの方に感謝します。漫画という文化を世界の人々が愛して下さるのを心から感謝します。
萩尾望都(はぎお・もと)さん プロフィール>
1949年生まれ。福岡県大牟田市出身。日本SF作家クラブ、日本漫画家協会に所属。女子美術大学客員教授。1969年『ルルとミミ』でデビュー。
2019年5月大英博物館The Citi exhibition Manga の原画展に参加し現地で講演を行った。現在、月刊flowers(小学館)にて『ポーの一族』の最新エピソードを精力的に連載中。
1976年『ポーの一族』『11人いる!』で第21回小学館漫画賞、1997年『残酷な神が支配する』で第1回手塚治虫文化賞マンガ優秀賞、2006年『バルバラ異界』で第27回日本SF大賞、2012年に少女漫画家として初の紫綬褒章、2017年朝日賞など受賞歴多数。2019年には文化功労者に選出。
主な作品に『ポーの一族』『トーマの心臓』『11人いる!』『銀の三角』『イグアナの娘』『マージナル』『半神』『王妃マルゴ』など。
タケダサナさんが最優秀ペインター/マルチメディアアーティスト賞を受賞!
今回、タケダサナさんが『モンストレス』の作画により「アイズナー賞」最優秀ペインター / メディアアーティスト賞を受賞しました。
なお、タケダさんは、同作品で2018年にも同賞およびハーベイ賞を受賞しています。
<タケダサナさん プロフィール>
イラストレーター/コミックアーティスト。セガでデザイナーを務めた後、フリーに。アメリカのマーベル・コミックに作品を提供するかたわら、日本でもゲームイラスト、挿絵、子供向けの絵本などを手掛ける
★公式サイト:https://sanatakeda.com/
Lovesickness: Junji Ito Story Collection Junji Ito (著) An innocent love becomes a bloody hell in another superb collection by master of horror Junji Ito. Ryusuke returns to the town he once lived in because rumors are swirling about girls killing themselves after encountering a bewitchingly handsome young man. Harboring his own secret from time spent in this town, Ryusuke attempts to capture the beautiful boy and close the case, but… Starting with the strikingly bloody “Lovesickness,” this volume collects ten stories showcasing horror master Junji Ito in peak form, including “The Strange Hikizuri Siblings” and “The Rib Woman.” |
<日本語版>
伊藤潤二傑作集 4 死びとの恋わずらい (ASAHI COMICS) 伊藤潤二 (著) 幼いころ住んでいた街に母と戻ってきた娘が幼なじみの少年と再会する。 |
モンストレス vol.1: AWAKENING (G-NOVELS) マージョリー リュウ (著), Marjorie Liu (原著), 椎名 ゆかり (翻訳), サナ・タケダ (イラスト) 日米の女性クリエイターたちが生み出した新次元ハイ・ファンタジーコミック『モンストレス』第1巻が待望の邦訳化! 愛くるしい猫や伝説上のモンスター・獣人など多彩なヴィジュアルが魅力の登場人物、アール・デコとスチームパンクが織り混ざる独特の世界観―― アールデコ調の美とスチームパンク・ホラーの融合した異世界を舞台に繰り広げられる壮大な物語『モンストレス』。 |
【関連】
▼Eisner Awards Current Info | Comic-Con International: San Diego
◆「ドラえもん」傑作選『とっておきドラえもん ぞくぞくぶるるホラー編』が刊行 巻末にはホラー漫画家・伊藤潤二さんの解説を収録 | 本のページ
◆小田雅久仁さん『禍(わざわい)』が海外翻訳&先行コミカライズ! | 本のページ
◆2020年アイズナー賞受賞作『アー・ユー・リスニング』が刊行 翻訳は三辺律子さん | 本のページ
◆伊藤潤二さんが“自らの頭の中”をさらけ出す『不気味の穴 恐怖が生まれ出るところ』を刊行 | 本のページ