時代劇でおなじみのお白洲は法廷ではなかった?尾脇秀和さん『お白洲から見る江戸時代』が刊行
身分の上下を重視する江戸時代のしきたりと、役人たちの奮闘から当時の「正義」とは何かを見出した話題作、気鋭の日本近世史研究者・尾脇秀和さん著『お白洲から見る江戸時代 「身分の上下」はどう可視化されたか』(NHK出版新書)がNHK出版より刊行されました。
嗚呼、今日も座席が決まらない……!
「この桜吹雪をよもや見忘れたとは言わせねえぞ」「これにて一件落着」。時代劇の決め台詞でおなじみの「江戸のお裁き」の舞台は、本当はどうなっていたのか。幼少期から“お白洲”に興味を抱き、素朴な疑問を持ち続けた著者が出した答えとは――。
江戸時代の社会には現代からは想像もできないような様々なしきたりがあり、人々はごく自然にそれらに従って生きていましたが、それは”お白洲”の空間でも同じこと。
奉行による裁きの前に「出廷者をどこに座らせるか」が大問題で、役人たちは、裁判にやってくる人々の「身分」に応じてお白洲の座席を正しく割り振ることに心血を注ぎました。
本書によれば、お白洲に出されたある年の裁判件数は1万件強で、2人の町奉行が1か月交代ですべてに必ず姿を現したとか……。座席決めを担った役人たちの苦労はいかばかりかと想像します。しかもお白洲は、私たちが時代劇などで刷り込まれた「法廷」のイメージとはだいぶ違うものだ、と尾脇さんは言います。
<序章より抜粋>
《御白洲とは何か。それは江戸時代のお裁きの場、いわば法廷のようなものである。人々は庭のような砂利敷の場所に平伏し、お奉行様は高い位置の座敷に着座して、彼らを見下ろし向かい合う―――。『大岡越前』や『遠山の金さん』など、時代劇ではおなじみの光景である。
(略)
けれども御白洲もお奉行様も、今やこの世界には存在しない。そのため「時代劇の御白洲は、どこまでが本当の光景か?」という関心を抱いたにせよ、現代人は〝御白洲は江戸時代の法廷〟という演劇由来のイメージから、なかなか逃れることは難しい。だが実際の御白洲は「法廷」ではない。それは構造、用途、本質 ―――どれをとっても、現代日本の「法廷」とは異なる、江戸時代独特の何か ―――なのである。》
本書は、100年以上にわたって役人たちが書き継いだ記録や当時の”マニュアル”を読み解き、さまざまな「身分」の上下を見極めようとする役人たちの熱意の背後に、幕府が守ろうとした社会の秩序と正義のあり方、近世社会を貫く「秩序観」をリアルに描いています。「身分制度」への思い込みが覆される快作です。
本書の構成
序章 法廷のようなもの
第一章 お裁きの舞台と形 ~どんな所でどう裁くのか?
第二章 変わり続ける舞台と人と…… ~御白洲はどこから来たか?
第三章 武士の世界を並べる ~どこで線を引くのか?
第四章 並べる苦悩、滲む本質 ~釣り合いを考えよ!
第五章 出廷するのは何か? ~士なのか? 庶なのか?
第六章 今、その時を ~身分が変わると座席は変わるか?
第七章 座席とともに背負うもの ~縁側から砂利へ落ちるとき
第八章 最後の日々 ~明治の始まり、御白洲の終わり
終章 イメージの中に沈む実像
著者プロフィール
著者の尾脇秀和(おわき・ひでかず)さんは、1983年生まれ。京都府出身。佛教大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(文学)。専門は日本近世史。現在、神戸大学経済経営研究所研究員、花園大学・佛教大学非常勤講師。
著書に『近世京都近郊の村と百姓』(思文閣出版)、『刀の明治維新――「帯刀」は武士の特権か?』(吉川弘文館・歴史文化ライブラリー)、『壱人両名――江戸日本の知られざる二重身分』(NHKブックス)、『近世社会と壱人両名――身分・支配・秩序の特質と構造』(吉川弘文館)、『氏名の誕生――江戸時代の名前はなぜ消えたのか』(ちくま新書)など。
お白洲から見る江戸時代: 「身分の上下」はどう可視化されたか (NHK出版新書) 尾脇 秀和 (著) 「この桜吹雪をよもや見忘れたとは言わせねえぞ」「これにて一件落着」――。決め台詞でおなじみの「江戸のお裁き」の舞台は、本当はどうなっていたのか? 100年以上にわたって役人たちが書き継いだ記録や当時の”マニュアル”を読み解き、近世社会を貫く「秩序観」をリアルに描き出す。 |
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