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【泉鏡花文学賞】松浦理英子さん『最愛の子ども』が受賞

第45回泉鏡花文学賞の選考会が10月11日に開催され、松浦理英子さんの『最愛の子ども』(文藝春秋)が受賞作に選ばれました。

 

泉鏡花文学賞とは

泉鏡花文学賞は、金沢市が主催。金沢に生まれ、近代日本の文芸に偉大な貢献をなした泉鏡花の功績をたたえ、あわせて「鏡花文学を育んだ金沢の風土と伝統を広く人々に認識していただき、文芸を通じ豊かな地域文化の開花」を期待して制定。

毎年8月1日を基準日とし、それまでに刊行された文芸作品(小説、戯曲など、単行本に限る)で、泉鏡花の文学世界に通ずるロマンの薫り高い作品を」対象とします。

なお、全国規模の地方自治体主催の文学賞としては、全国に先駆けて昭和48年に制定された文学賞です。

 

第45回泉鏡花文学賞について

『最愛の子ども』で第45回泉鏡花文学賞を受賞した松浦理英子さんには、正賞として「八稜鏡(はちりょうきょう)」が、副賞として賞金100万円が贈られます。
授賞式は、11月15日から19日まで開催される「金沢泉鏡花フェスティバル2017」のなかで行われます(11月19日)。

※金沢泉鏡花フェスティバル2017の詳細は、http://kyokafes2017.com/ をご覧ください。

 

最愛の子ども
日夏(ひなつ)と真汐(ましお)と空穂(うつほ)。
夫婦同然の仲のふたりに、こどものような空穂が加わった。
私立玉藻(たまも)学園高等部2年4組の中で、仲睦まじい3人は〈わたしたちのファミリー〉だ。

甘い雰囲気で人を受け入れる日夏。
意固地でプライドの高い真汐。
内気で人見知りな空穂。

3人の輪の中で繰り広げられるドラマを、同級生たちがそっと見守る。
ロマンスと、その均衡が崩れるとき。
巧みな語りで女子高生3人の姿を描き出した傑作長編。

 
【メディア掲載レビューほか】
パパ、ママ、王子……3人の女子高生が擬似ファミリーを築く傑作小説

幸福な「ファミリー」に擬せられた三人の女子高生をめぐるこの物語は、「わたしたち」という珍しい主語で語られる。

「わたしたち」というのは、主たる登場人物三人を目撃する級友の集合体で、特定のだれかは最後まで顔を出さない。作中の言葉を借りれば、「小さな世界に閉じ込められて粘つく培養液で絡め合わされたまだ何ものでもない生きものの集合体を語るために」、この主語が選ばれたという。すみずみにまで目を光らせ、「わたしたち」は物語をいきいきと語り続ける。

「わたしたち」の声は、時にギリシャ悲劇のコロスを、あるいは王朝文学の女房たちを連想させたりもするが、日夏(ひなつ)や真汐(ましお)の視点に立つ場合は、これから妄想する、捏造をする、とあらかじめ言いおいてから、するりと内部に入り込んで語り続ける。あやふやさや、話を面白く膨らませることもある、一種メタフィクショナルな語り手であるのが面白い。

権威に衝突しがちで意固地なところのある真汐と、人気者で際立って何でもできるが、どこか醒めている日夏。中等部時代に深く結びついた二人に高等部から入学してきた極端に受動的な空穂(うつほ)が加わって、親密な三人の関係は「ファミリー」と呼ばれ、大切なロマンスとして共有され語られることになる。

当然のことながら彼女たちには家族がいる。自分たちで選びとった「ファミリー」に比べると、日夏も、真汐も、空穂も、現実の家族に不全感を抱えている。そして三人の関係性も不動のものではない。なりたちから変容、途絶までを「わたしたち」は見守る。関係に力ずくでヒビを入れるのは現実の家族で、結果として日夏は王国を出る選択を迫られる。

著者は、初期の代表作『ナチュラル・ウーマン』で、女性同士の性愛を描いた。形のまだ定まらない官能を描く『最愛の子ども』を読んで、『ナチュラル・ウーマン』の女性たちの少女時代を読んだような錯覚に一瞬、とらわれたが、二〇一一年までの数年と時代が設定された『最愛の子ども』の日夏や真汐は、彼女らの子どもの世代にあたるのだ。

作中で「わたしたち」の一人である美織の母親が、「あの人」について言及する場面が印象に残る。詳しくは語られない「あの人」は、『ナチュラル・ウーマン』の花世や容子であるかもしれない。『最愛の子ども』は、『ナチュラル・ウーマン』の作者から「道なき道を歩め」と子ども世代に手渡される、慈しみを込めた青春小説である。

評者:佐久間 文子
(週刊文春 2017.06.15号掲載)

 
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