佐藤究さん『テスカトリポカ』が山本周五郎賞受賞&直木賞候補!「佐藤究×京極夏彦 究・極対談」を公開
KADOKAWAより2021年2月に刊行された、佐藤究さん著『テスカトリポカ』が、このたび第165回直木三十五賞候補作に選出されました。また、本作は、第34回山本周五郎賞も受賞しています。
『テスカトリポカ』の第34回山本周五郎賞受賞と第165回直木三十五賞候補作入りを記念して、「佐藤究×京極夏彦 究・極対談」をカドブンで公開中です。
『テスカトリポカ』の第34回山本周五郎賞受賞、第165回直木三十五賞候補を記念して「佐藤究×京極夏彦 究・極対談」をカドブンで公開中!
資本主義の悪を体現したかのような凶悪犯罪に、アステカ神話の世界を重ねて描いた超弩級クライムノベル巨編『テスカトリポカ』の作者の佐藤究さんと、「巷説」シリーズの最新作『遠巷説百物語』の刊行が7月2日に迫る京極夏彦さん。
『野性時代』完全電子化第1号に掲載された二人の特別対談を『テスカトリポカ』の第34回山本周五郎賞受賞と第165回直木三十五賞候補作入りを記念して、文芸WEBマガジン「カドブン」にて特別公開中です!
時間の編集は小説の極めて重要な要素
佐藤さん:京極さんとは裏の仕事でいつもご一緒していますけど、こうして表でお話しするのは初めてです。
京極さん:裏って(笑)。別に晴らせぬ恨みを晴らしたりしてるわけじゃないですから。ただ小説の話はしたことないですね。
佐藤さん:貴重な機会なので、京極さんに打ちこまれる覚悟で、こういう対談ではあまり見ない切り口からお話を伺えればと思います。今日一番お訊きしたいのは、京極作品における時間について。たとえば京極さんの『ヒトごろし』は普通ここでカットするだろうという箇所でも、シーンが切り替わりません。人を斬れる立場としての武士に執着する土方歳三の意識の流れが、休むことなく描かれていて、異様な感じを受けました。連想したのはフランツ・カフカの『城』です。カフカの主人公も権力の象徴である城の周囲を、いつまでもさまよい続けている。『ヒトごろし』に流れる時間は、あの不穏さに近い。そう思いながら『オジいサン』も読み返して。
京極さん:内容にずいぶん落差があるけど(笑)。
佐藤さん:『オジいサン』はユーモア小説のように思われていますけど、相当怖ろしいですよ。あの作品のテーマはまさに時間ですよね。益子徳一という老人の意識が、リアルタイムで叙述されていく。なぜ自分が卵を二つ割ってしまったのか、というような些細な問題を執拗に追い続けていて、鬼気迫るものがあります。澁澤龍彦がカフカの世界を評して、完結しているのに虚無に通じる穴が空いている、と書いているんですが、京極さんは正気を保ってカフカのようなことをやっている。
京極さん:今日は佐藤君の新作『テスカトリポカ』の話をしにきたはずなんだけど(笑)、思わぬ方向から球が飛んできて、虚を衝かれました。『オジいサン』は視点人物の脳内時間と、読者が文字を追う時間をシンクロさせようという無駄な試みですね。ドラマの『24』のようなもので。普通、小説内時間と読書時間は一致していないわけですが、それを近づけることは技術的に不可能なことではなかろうと。ただ短編一本読み終えるまでにかかる時間はせいぜい数十分だから、大した事件は起こせない。当然地味な小説になる。僕には面白くない小説を、面白そうに見せかけることに心血を注ぐという困った性質があるんです。
佐藤さん:『オジいサン』を読んでいると、時間が白昼を漂う幽霊のような存在であることがよく分かる。京極さんの怖さがある意味、一番出ている小説だと思います。時間を編集するといえば、京極さんの小説は文章が見開きページを跨がない工夫をされているじゃないですか。あれも視覚的効果より、むしろ時間のコントロールに関係しているのかな、と推理しているんですが。
京極さん:仰る通り時間の編集は小説において極めて重要な要素だと思います。でもあまり注目する人はいませんね。小説内時間は可変・可逆ですから、実時間ではなく体感時間に近い。のみならず自由にコントロールすることができる。一行で百年経過させることも可能だし、折り畳むことも分岐させることも可能です。時系列を組み換え密度を調整するだけでマジックリアリズムのような効果を出すことも可能でしょうし。『テスカトリポカ』も大胆な時間の編集をしていますよね。異なる時間軸を同一線上に並べることで、アステカの神話世界と、それを信仰するメキシコ人血族の青史、そして現代の闇社会と犯罪という異質なものが、単に接続するのではなく同質の事象として立ち上がってくる。
佐藤さん:前作の『Ank:a mirroring ape』が時間をシャッフルさせる手法を使って上手くいったので、その延長でこういう形になったんだと思います。この話は時系列順に書いても、面白いものにはならないだろうなと。
京極さん:『Ank』の三倍は面倒なことをしていますよね。手間も時間もかかったでしょ。
佐藤さん:完成まで三年半かかりました。部屋から二度と出られないんじゃないかと思った日もあったので、ほっとしています。
※対談全文は、文芸WEBマガジン「カドブン」にて、お楽しみください!
★URL:https://kadobun.jp/feature/talks/bxo1s6yh0o0g.html
『テスカトリポカ』について
<あらすじ>
メキシコのカルテルに君臨した麻薬密売人のバルミロ・カサソラは、潜伏先のジャカルタで日本人の臓器ブローカーと出会う。二人は新たな臓器ビジネスを実現させるため日本へ向かった。川崎に生まれ育った天涯孤独の少年、土方コシモは、バルミロに見いだされ、知らぬ間に彼らの犯罪に巻きこまれていく――。海を越えて交錯する運命の背後に、滅亡した古代アステカ王国の恐るべき神の影がちらつく。
人間は暴力から逃れられるのか。心臓密売人の恐怖がやってくる。誰も見たことのない、圧倒的な悪夢と祝祭が、幕を開ける。
テスカトリポカ 佐藤 究 (著) |
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