気になる本、おススメの本を紹介

B O O K P O O H

『お金の叡智』お金はキレイ?汚い? 世界最高峰のフランス人哲学者兼作家が案内する、お金をめぐる「知の旅」

『お金の叡智』お金はキレイ?汚い? 世界最高峰のフランス人哲学者兼作家が案内する、お金をめぐる「知の旅」

『お金の叡智』お金はキレイ?汚い? 世界最高峰のフランス人哲学者兼作家が案内する、お金をめぐる「知の旅」

パスカル・ブルュックネールさんの著書『お金の叡智』(訳:山形浩生さん、森本正史さん)が、かんき出版より刊行されました。

 

368ページと骨太なのに軽妙!お金の善悪を考える本

本書の著者は、フランスで哲学と文学を修め、作家・エッセイストとして活躍する著者パスカル・ブリュックネールさん。ロマン・ポランスキー監督によって映画化された小説『赤い航路』や、『無垢の誘惑』(法政大学出版局)を発表するなど、多岐に渡り活躍しています。

本書は、パリ政治学院で教鞭をとるパスカルさんが、お金をめぐる3つの神話について紐解いたエッセイ集です。

・お金は世界を支配するのか?
・富は人々を不幸にするのか?
・お金と愛情は両立しないのか?

という言説は、どこまで本当なのでしょうか。

本書では、人間とお金の愛憎入り混じる関係を、宗教やお金に対する偏見、持っている人と持たざる人という視点から分析しています。

本文では、キム・カーダシアン、カニエ・ウェスト、パスカル、プラトン、キルケゴール、バルザック、フィッツジェラルド…文豪、政治家、哲学者、セレブリティなどなど昨今の人物たちのエピソードや古典文学を引用しています。

本書は、お金の儲け方や使い方を教えるビジネス書でも、経済書でもありません。お金の起源を巡る、壮大な「知の旅」へ案内してくれます。

 

愛は常に不純である

本書の第7章「卑しい計算ずくは崇高な愛を殺したか?」より、愛とお金にまつわる考察を一部紹介します。

 
金持ちは決して一人の人間として愛されることはなく、彼らの富が、その人物の引き起こす友情に介入すると言われる。それは事実かもしれないが、ほとんどの人間関係について言える話でもある。気持ちは状況のなかでしか存在せず、共有されたプロジェクトや共通の嗜好により生じる。ある人物に対するあらゆる好意は、我々の好む性格や身体的な特徴という形でやってくる。私が病気なら、顔がひどいハンセン病でいきなり崩れたら、急に不運に陥ったら、あなたは私を愛してくれますか?
ここで我々は、永遠の唯物論者の矛盾に直面する。心の問題を利己性に最終的に決めさせることだ。曖昧な気持ちをはっきりさせることで、お金は鮮明性の特権を要求する。気持ちの流出があると思ったところに、ドルやユーロの無慈悲な法則が至高の選択をもたらすのだ。

だがこの明晰さは妄想だ。これはエイドリアン・ラインの映画『幸福の条件』(1993年)でうまく示されている。この映画では金持ちが美しい若い女性(既婚で夫と愛しあっているが借金まみれ)に、一夜をともにしてくれれば100万ドル払うと申し出るのだ。夫の同意を得て、彼女は嫌々ながら同意する。二人の結婚はその後まもなく崩壊する。それは、この取引で彼女が「魂」を売り渡したからではなく、自分を賃借した男に対する気持ちが芽生えたからだ。だが夫と離婚して、彼女は自分が間違いを犯したと悟り、結局夫の元に戻る。愛を殺したのはお金ではなく、取引を歪めて必要以上に長引かせたのが愛だったのだ。

気持ちは価値の問題を引き起こす。相手が私を愛しているなら私は自分の存在条件から救われる。存在の罪が浄化される。もし相手が私を捨てたら私は自分の存在の無償性に圧倒される。私に価値があるのは、相手の欲望によって正当化される場合だけだ。さらに我々は、交際のあらゆる段階にこの比喩を続けられる。我々を喜ばせる人物の評価、短所と長所の比較は、時に入社面接を思わせる。そこでは人は機会を最大化するか、少なくとも損失を最小化しようとする。

 

本書の目次

第1部 お金を崇める者と軽蔑する者

第1章 節操なき金漁りは悪魔の糞
第2章 貧困者の至高の尊厳について?
第3章 お金の話はタブーのフランス
第4章 お金に精神的価値があるアメリカ

 
第2部 黄金の仔牛(お金の象徴)をめぐる三つの神話

第5章 お金は世界の支配者か?
第6章 富裕は人々を不幸にするか?
第7章 卑しい計算ずくは崇高な愛を殺したか?

 
第3部 金持ちの責任と義務

第8章 ブルジョワジーの価値観はリハビリすべきか?
第9章 金持ちになるのは犯罪ではない( また貧乏に陥るのは美徳ではない)
第10章 奪う手、与える手

 
結論 お金については分裂した思考を容認しよう

 

著者プロフィール

■著者:パスカル・ブルュックネールさん


1948年生まれ。哲学と文学を修める。パリ政治学院で教鞭をとるかたわら、作家・エッセイストとして活動している。哲学的エッセイから小説まで幅広いジャンルを手がけている。

邦訳書に『無垢の誘惑』(法政大学出版局)、ポーランド出身の映画監督ロマン・ポランスキー監督によって映画化された小説『赤い航路』(扶桑社)などがあり、多才ぶりを発揮。多数の著書があり、これまで翻訳された数は24カ国に及ぶ。

 
■訳者:山形浩生さん

翻訳家。1964年東京生まれ。東京大学工学系研究科都市工学科修士課程、マサチューセッツ工科大学不動産センター修士課程修了。大手調査会社に勤務する一方で、科学、文化、経済、コンピュータなどの幅広い分野で翻訳・執筆活動を行っている。

著書・翻訳書多数。訳書に『21世紀の資本』(みすず書房、2014年)、『アニマルスピリット』(2009年)、『それでも金融はすばらしい』(2013年)、『アイデンティティ経済学』(2011年、いずれも東洋経済新報社)のほか、『自己が心にやってくる』(早川書房、2013年)、『自由と尊厳を超えて』(春風社、2013年)などがある。

■訳者:森本正史さん

翻訳家。訳書に『21世紀の資本』(2014年)、『パクリ経済―コピーはイノベーションを刺激する』(2015年、いずれもみすず書房)、『21世紀の不平等』(東洋経済新報社、2015年)などがある。

 

お金の叡智
お金について何を言おうと、必ずその反対語もついてまわる。

お金は粗野であり高貴である。
虚構でありながら現実でもある。

人を引き離すこともあれば、結びつけもする。

たくさんあれば恐ろしくなるが、足りないのも恐ろしい。

悪を行う善であり、善を行う悪でもある。

お金は叡智探究の裏付けになる。
これは二つの意味に理解される。

お金を持つのは賢明であり、それに対する批判的思索も賢明だということだ。

お金は常に我々に自分の欲望、財産、負債と折り合いをつけるよう強いる。

誰であろうとすべての人を哲学者にしてしまう。
賢く考えることは、自分自身と他人のために賢く遣うことでもある。

お金は露呈させる。ケチと浪費家、守銭奴と嫉妬深い輩を暴く。
懐具合はすべてを明らかにする。

誰もお金に気を許せない。
それを憎んでいると信じている者でも、内心ではそれを崇めている。

それを崇めている者は、過大評価している。
それを軽蔑しているふりをしている者は、自分をごまかしている。

問題をはらんだ情熱、不可能な非難。そこが難しいところだ。

お金について語ることは常に、自分について語ることである。

 


コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です