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官能小説の巨匠・宇能鴻一郎さん短編集『アルマジロの手』が刊行

話題を呼んだ『姫君を喰う話』に続く傑作集、東大院生として芥川賞を受賞、その後「官能作家」に転身した鬼才・宇能鴻一郎さんの『アルマジロの手 宇能鴻一郎傑作短編集』が新潮文庫より刊行されました。

どこか『雨月物語』を連想させる不思議な表題作をはじめ、官能的な、あまりに官能的な7編を収録した、性と生の常識を根底から揺るがす〈劇薬文学〉です。

 

官能小説の巨匠が贈る〈偏愛〉〈変態〉〈BL〉……7編を収録!

「官能文学の巨匠」「謎めいた作家」と呼ばれる宇能鴻一郎さんは、今年89歳。しかしその活力は衰えることを知りません。いったい元気の秘密は何なのか。担当編集者が単刀直入に訊いてみると、

 
「私はこれが普通だから、何という事もありませんよ。いまでも丸太材をチェーンソーで切って、マサカリを振るって薪にしています。暖炉用にね。何でもなるべく自分でやるようにしている。邸が広いからよく歩いてはいますがね」

 
宇能さんは食エッセイの傑作『味な旅 舌の旅』を上梓したように、食に対するこだわりも強いのですが、それもエネルギーの源では?と聞かれると、以前は邸にフレンチのシェフを呼び、晩餐会を開いたといいます。最近こそ食べる量は減ったものの、好みの店は決まっていて、ホテルの高級割烹から街場の居酒屋まで、どこも自分の舌で見つけた店ばかり。「銀座なんか高いばかりで面白くない」と、東京には一切行かないそうです。

 
お気に入りの店に行けば、テーブル一杯に料理を注文し、特大のピルスナーグラスで生ビールを飲み干し、不敵な笑みを浮かべる。担当編集者にも負けない飲みっぷりで、興が乗れば、張りのある声でオペラを一節歌う。その姿は、とても89歳とは思えず、やはり「謎めいた作家」というほかないようです。

 
最新刊の本書には、食をテーマにした短編が収録されています。むさぼり喰らう快楽にとり憑かれた男の幸福を描いた「月と鮟鱇男」や、鰻好きを自認する男の新婚旅行を描く「鰻池のナルシス」など、食と性の根源に迫る傑作です。食べる場面の濃密な描写は、前作『姫君を喰う話』を読んだ方は周知のことでしょう。

 
この他、甘美な爛熟世界に堕ちた男を描く傑作「魔楽」は、BL文学というには憚られるほどの「本格派」。官能の深みと人間の深淵を短編に昇華させた極上の七編です。

 

本書の目次

アルマジロの手

心中狸

月と鮟鱇男

海亀祭の夜

蓮根ボーイ

鰻池のナルシス

魔楽

解説 鵜飼哲夫

 

著者プロフィール

宇能鴻一郎(うの・こういちろう)さんは、1934(昭和9)年生れ。東京大学文学部国文学科卒業後、同大学院博士課程中退。在学中に発表した短編「光りの飢え」が芥川賞候補となり、翌1962年「鯨神」で第46回芥川賞を受賞。

『逸楽』『血の聖壇』『痺楽』『べろべろの、母ちゃんは……』『むちむちぷりん』『夢十夜 双面神ヤヌスの谷崎・三島変化』『姫君を喰う話』『甘美な牢獄』『アルマジロの手』等著書多数。他に名エッセイ『味な旅 舌の旅』がある。

 

アルマジロの手:宇能鴻一郎傑作短編集 (新潮文庫)
宇能 鴻一郎 (著)

官能的、あまりに官能的な七編。
『姫君を喰う話』に続く傑作!

彼は「手が……手が……アルマジロの手が」というばかりだったのです――。不気味な緊張感を孕む怪奇な作品「アルマジロの手」、美しい姫君に恋をした狸の哀切「心中狸」、むさぼり喰らう快楽にとり憑かれた男の無上の幸福「月と鮟鱇男」の他、性と生の悲しみがきわまる「海亀祭の夜」「蓮根ボーイ」、濃厚ないのちにあえぐ「鰻池のナルシス」、そして甘美な爛熟世界に堕ちた男を描く傑作「魔楽」を収録。官能の深みを文学に昇華させた七編。

 
【関連】
試し読み | 宇能鴻一郎 『アルマジロの手―宇能鴻一郎傑作短編集―』 | 新潮社

 


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