【第2回日伊ことばの架け橋賞】松田青子さん『おばちゃんたちのいるところ』が受賞
イタリア外務省が設立した伊日財団が2022年、イタリア国内に日本の近代文学を広めることを目的に創設した「日伊ことばの架け橋賞」の第2回にあたる本年の受賞作が、2021年に英語版で「世界幻想文学大賞」短編集部門を受賞した、松田青子さんの短篇集『おばちゃんたちのいるところ Where The Wild Ladies Are』(中公文庫)に決定しました。
追いつめられた現代人のもとへ、おばちゃん(幽霊)たちが一肌脱ぎにやってくる――。
『おばちゃんたちのいるところ』(中央公論新社)は、落語「牡丹灯籠」「反魂香」「皿屋敷」や歌舞伎「娘道成寺」など日本の古典作品をモチーフに、女性の幽霊たちが現代によみがえりパワフルに行動する、愉快な連作短篇集です。2016年の単行本、2019年の文庫版刊行以来、数多くの書評で取り上げられ、版を重ねています。
また、本作は現在までに英語、イタリア語、スペイン語、中国語、タイ語、ポルトガル語などに翻訳され、世界10ヵ国以上で翻訳が進んでいます。英語版は、『TIME』(米)の「The 10 Best Fiction Books of 2020」、BBC(英)の「The best books of the year 2020」、『THE NEW YORKER』(米)の「My Favorite Fiction of 2020」などに選出され、レイ・ブラッドベリ賞の候補となったのち、ファイアークラッカー賞、世界幻想文学大賞(短編集部門)を受賞。イタリア語版『Nel paese delle donne selvagge』は、ジャンルーカ・コーチさんの翻訳により、e/o社から2022年6月に刊行されました。
そしてこのたび、『おばちゃんたちのいるところ Where The Wild Ladies Are』の第2回「日伊ことばの架け橋賞」受賞が決まりました。今回は、2022年にイタリアで翻訳出版された日本現代文学作品20点以上を対象に、研究者や作家、ジャーナリストらからなる審査委員会による選考が行われました。そして、本書のほか、辻仁成さんの『エッグマン』(Asuka Ozumi 訳、Rizzoli Editore 刊)、恩田陸さんの『ユージニア』(Bruno Forzan訳、Mondadori Editore 刊)が最終候補作として選出されました。
『おばちゃんたちのいるところ Where The Wild Ladies Are』の受賞理由としては、日本の古典作品を下敷きに、女性の幽霊が主人公の物語を現代に編み直した野心的な取り組みが評価されました。
それぞれ独立した短篇でありながら、皮肉に満ち、ポストモダン社会への厳しい批判の目がそれらを繋いでいること。社会でいまだに女性が直面する問題に主人公らが立ち向かい、新たな光を与えられていること。作品に描かれる社会像は、日本のみならずイタリアでも共通している、と受けとめられました。
「松田青子の本作品は、ポップ・カルチャーとフェミニズムを一体化させた」「『妖怪物語』のモチーフを手掛かりにしつつ、古来の女性蔑視を排除した」と審査委員会からコメントされています。
そして、本書の翻訳についても、「本作品が特徴とする多様な語り口はジャンルーカ・コーチにより的確に伝えられた」と高く評価されました。
本賞の授賞式は、2023年12月7日にイタリア・ローマで行われる予定です。授賞式には、著者の松田青子さんと訳者のジャンルーカ・コーチさんが招待されています。
著者プロフィール
■著者プロフィール:松田青子(まつだ・あおこ)さん
1979年生まれ、兵庫県出身。同志社大学文学部英文学科卒業。2013年、デビュー作『スタッキング可能』が三島由紀夫賞および野間文芸新人賞候補に、2014にTwitter 文学賞第一位となり、2019年には『ワイルドフラワーの見えない一年』収録の「女が死ぬ」(英訳:ポリー・バートンさん)がアメリカのシャーリィ・ジャクスン賞短編部門の候補となる。2021年、『おばちゃんたちのいるところ』がレイ・ブラッドベリ賞の候補となったのち、ファイアークラッカー賞、世界幻想文学大賞を受賞。
その他の著書に『英子の森』『女が死ぬ』『持続可能な魂の利用』『男の子になりたかった女の子になりたかった女の子』、エッセイ集に『ロマンティックあげない』『じゃじゃ馬にさせといて』『自分で名付ける』などがある。カレン・ラッセル、アメリア・グレイ、カルメン・マリア・マチャドらの作品翻訳も務める。
■イタリア語版訳者:ジャンルーカ・コーチさん
トリノ大学外国語・文学、近代文化学部日本語・日本文学教授。専門は近現代文学。
翻訳を担当した日本人作家に、谷崎潤一郎、安部公房、井上靖、大江健三郎さん、桐野夏生さん、村上龍さん、高橋源一郎さん、古川日出男さん、阿部和重さん、川上未映子さん、村田沙耶香さんほか。2009年に日本語からの翻訳作品でマリオ・グリエルモ=スカリーゼ賞、2020年に文学作品翻訳でアッピアーニ賞、2022年に全国翻訳賞を受賞。
おばちゃんたちのいるところ-Where The Wild Ladies Are (中公文庫) 松田 青子 (著) 追いつめられた現代人のもとへ、おばちゃん(幽霊)たちが一肌脱ぎにやってくる! |
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