おおたわ史絵さんの本職は「刑務所のお医者さん」だった! 塀の中の診察室のドラマに溢れた日々を綴った『プリズン・ドクター』が刊行
おおたわ史絵さん著『プリズン・ドクター』(新潮選書)が新潮社より刊行されました。
著者のおおたわ史絵さんは、テレビでも活躍している女性医師ですが、実は本職は「法務省矯正局医師」。本書では、塀の中の診察室のドラマに溢れた日々を綴っています。
テレビでも活躍している女医の本職は「法務省矯正局医師」だった!
著者は「刑務所のお医者さん」という仕事を「天職」だと言います。母親の望みを叶える形で父親と同じ職業になった著者は、医師になることに強い動機があったわけではありません。そんな著者にとって、常に医師不足に悩まされ、切実に医師が求められている「塀の中」は、自分の獲得した「医師免許」の重さが感じられる環境でした。
加えて言えば、著者の母親は医療薬物の依存症でした。実は刑務所における「累犯チャンピオン」は薬物依存症の人たちなのです。そうした疾病に理解のある立場だったことも、著者がこの職業を選んだ理由の一端でもあります。
実際の「塀の中の診察室」は、人が想像するほど怖い場所ではありません。というか、全く怖くない。すこしでも安全を脅かすようなものはことごとく(ボールペン1本ですら!)排除されており、もしもの場合に備えて刑務官が常にアテンドしているからです。時に「患者様」の横暴にさらされるシャバの診察室とは違い、そこは純粋に医療と向き合い、治療に専念できる環境だったのです。
いちど入ってしまえば、塀の中の診察室は、好奇心旺盛な著者にとってはある種のワンダーランド。カルテには刺青や指詰めを確認する項目があり、実際に指を食いちぎってしまった男までいる。薬物で入ってきた年若い女性受刑者の背中に見事な刺青を認めて暗鬱としたり、「玉入れ」に熱中する受刑者たちに呆れたり。知的障害なのに福祉に繋がれず、軽犯罪を繰り返している「累犯障害者」や、いわゆる「ケーキの切れない非行少年たち」の姿もたくさん目にします。LGBTQの受刑者をどうするかという、世相を反映したような問いもある。診察室は、現代社会を裏側から照らし出す鏡のようでもあります。
深刻なテーマが少なくありませんが、それでも著者の筆致はどこかユーモラス。著者と一緒に、塀の中を体験するようなつもりで一読してみてはいかがでしょうか。
<内容紹介>
母親が望んだ父親と同じ道に進んだ女性医師は、刑務所のお医者さんになって「天職」を見出した。〈文身〉〈傷痕〉〈玉入れ〉など、受刑者カルテには独特の項目はあるけれど、そこには切実に治療を必要とする人たちがおり、純粋に医療と向き合える環境があったからだ。薬物中毒だった母との関係に思いを馳せ、医師人生を振り返りつつ、受刑者たちの健康と矯正教育の改善のために奮闘する日々を綴る。
著者コメント
「全部、本当の話です。
私が塀の中で見て聞いて診た、本物のリアルです。
刑務所には怪物が住んでいると思っていました。でもそこにいたのは私と同じ人間でした。
この本を通して人間の可笑しさ、愚かさ、哀しさを共に感じていただけたならと」
本書の構成
第1章 刑務所のお医者さんになりました
プリズン・ドクターにたどり着くまで
医療チームはクセ有り揃い
WE ARE TEAM
第2章 診察室の風景
刑務所にないもの、な~んだ?
夏は水虫、冬はしもやけ
名前は呼びません
第3章 罪人のカルテ
刺青、指詰めの有無をチェック!
薬持ちはステイタス
自分の指を噛みちぎった男
刑務所ごはんでナチュラルダイエット
第4章 懲役のベテランたち
人懐っこい「いい子ちゃん」
累犯ワースト1は薬物依存者
刑務所で死ぬということ
第5章 女という罪
女子刑務所にて
次に生まれてくるときは
第6章 罪を犯さずには生きられない
少年院で育った子
組員という生き方
「刑務所に戻りたかった」
第7章 それでも世間の風は吹く
LGBTQと刑務所
新型コロナvs.受刑者
希望寮と保護室
第8章 笑う刑務所を作ろう
笑いの健康体操
笑い方を忘れてしまう受刑者たち
あとがき
謝辞
著者プロフィール
著者のおおたわ史絵(おおわた・ふみえ)さんは、総合内科専門医、法務省矯正局医師。東京女子医科大学卒業。大学病院、救命救急センター、地域開業医を経て2018年よりプリズン・ドクターに。医師と並行して、テレビ出演や著作活動も行っている。
近著に、薬物依存だった母親との関係を描いた『母を捨てるということ』がある。
プリズン・ドクター (新潮新書) おおたわ 史絵 (著) |
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