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【第7回渡辺淳一文学賞】葉真中顕さん『灼熱』が受賞

第7回渡辺淳一文学賞が決定!

第7回渡辺淳一文学賞が決定!

集英社は4月1日、第7回渡辺淳一文学賞の受賞作を発表しました。

 

第7回渡辺淳一文学賞が決定!

第7回渡辺淳一文学賞の受賞作が、次の通り決定しました。

 
<第7回渡辺淳一文学賞 受賞作品>

葉真中顕(はまなか・あき)さん
『灼熱』(新潮社)

 
受賞者の葉真中顕さんは、1976年生まれ。東京都出身。。2013年『ロスト・ケア』で日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞しデビュー。2015年『絶叫』で吉川英治文学新人賞候補・日本推理作家協会賞候補、2017年『コクーン』で吉川英治文学新人賞候補。2019年『凍てつく太陽』で大藪春彦賞日本推理作家協会賞を受賞。ほかの著作に『Blue』『そして、海の泡になる』など。

 
選考委員は、浅田次郎さん、小池真理子さん、髙樹のぶ子さん、宮本輝さん。

 

受賞作『灼熱』について

葉真中さんは2012年、介護現場の厳しさを描いた『ロスト・ケア』で日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。その後、吉川英治文学新人賞の候補となった『絶叫』、『コクーン』、大藪春彦賞、日本推理作家協会賞をW受賞した『凍てつく太陽』などの作品を世に送り出し、社会派ミステリーの旗手として注目を集めてきました。

今回の受賞作『灼熱』は、そんな葉真中さんが5年をかけて取り組んだ骨太の超大作。戦後のブラジルで日本移民の間で起こった史実「勝ち負け抗争」をもとにした物語は、どこか現代の世界中で起こっている格差と分断の問題とも重なります。綿密な取材に基づきながら、エンターテイメントとしての物語の面白さも兼ね備えた本作は、刊行後も読者の熱い支持を得てきました。

今作のもとになっているのは、戦後のブラジルで実際に日本移民の間で起こった事件「勝ち負け抗争」。一見、時代も場所も、現代日本から遠く離れたテーマのように思えますが、実はそこには、今の日本にも通じる、人間社会の普遍的な問題と葛藤が横たわっています。

 
今、なぜこの事件を描こうと思ったのか。本書の発売時、葉真中さんは次のように語っています。

「我々人間は、一言でいえば『信じたいものを信じてしまう』生き物です。

戦後、日本の正確な情報の入手が難しかったブラジルの日本移民の間では、第二次世界大戦に日本が“勝った”というフェイクニュースが駆け巡りました。戦局もよいと伝えられていたため、およそ9割の人がそれを信じたと言われています。対して、少数ながら敗戦を認識した層もありました。両者は激しく対立し、やがて23人もの死者、多数の負傷者を出す大抗争に発展してしまいました。

背景には、もちろん当時の情報伝達の問題があります。現代であれば、正しい情報が世界中に素早く伝達され、間違った情報もすぐに訂正されるでしょう。

ただ一方で、今も当時と変わらない問題は起こっていると感じます。世界中で分断と格差が拡大し、コロナについてフェイクニュースが行き交っている。どんなに情報化した社会であっても、です。

それは、誰にとっても決して他人事ではないはず。とくに、自分自身に『自明なもの』としてインストールされてしまっている見方や価値観を疑うには、多大なコストがかかります。私自身、その問題に向き合いながら、自分なりの誠実さをもって、このテーマに挑戦したいと思いました」

 
◆そもそも『勝ち負け抗争』に興味をもったきっかけは、当事者の声でした。

「2016年にラジオで、暗殺事件を起こした当事者の最後の生き残りである日高さんがこの事件について語られているのを聞き、いつか書いてみたいと思いました。ただ、何の知識もない自分がいざ書くとなれば相当な勉強と取材が必要だろうと思い、しばらく尻込みしていました。

ところが、いろいろな巡り合わせが重なり、2017年、腹を括って取り組んでみようと覚悟しました。その後、多くの資料を読み込み、ブラジルにも直接取材に行くことができました。

執筆中、トランプ前大統領の支持者が米連邦議会議事堂を襲撃する事件が起こった時は、現代でも、思想の分断や信じるものの違いが実際に血が流れるような抗争に繋がってしまうのだと呆然とするような思いでした。コロナ禍において日本でも、ワクチンを打つべきか打たざるべきか等、様々なニュースが飛び交っている今、この本を出版することになったことに、非常に大きな意味を感じています」

 
<『灼熱』あらすじ>

沖縄生まれの比嘉勇(ひが・いさむ)は、叔父たちと共にブラジルに移住、日本人入植地「弥栄(いやさか)村」でブラジル生まれの日本移民二世・南雲(なぐも)トキオと出会い、無二の親友となる。二人はともに日本へ帰ろうと約束する。

祖国の戦争が伝えられる中、村一番の農家・南雲家が育てるハッカは敵性産業だという噂が出回り、夜襲を受ける。トキオたちは村を出ていくが、実は襲撃したのは、「御国のため」の正義を掲げる、勇ら村の者たちだった。新たに村のリーダーとなった瀬良(せら)に目をかけられた勇は、村で存在感を発揮する。

そんな中、終戦の報がもたらされる。サンパウロにいるトキオには「日本が敗けた」、弥栄村にいる勇たちには「日本が勝った」という報せが……。両者は激しく対立し、ついには事件が勃発する――。

 

渡辺淳一文学賞について

渡辺淳一文学賞は、昭和・平成を代表する作家であり、豊富で多彩な作品世界を多岐にわたり生み出した渡辺淳一さんの功績をたたえ、「純文学・大衆文学の枠を超えた、人間心理に深く迫る豊潤な物語性を持った小説作品」を顕彰する文学賞です。集英社と公益財団法人一ツ橋綜合財団が主催。

前年の1月~12月に刊行された、日本語で書かれた小説(単行本および単行本未刊行の文庫)が対象。過去には川上未映子さん『あこがれ』(第1回)、平野啓一郎さん『マチネの終わりに』(第2回)、東山彰良さん『僕が殺した人と僕を殺した人』(第3回)、千早茜『透明な夜の香り』(第6回)などの話題作がジャンルを問わず受賞しています。なお、受賞者には、正賞として記念品、副賞として200万円が贈呈されます。

 

灼熱
葉真中顕 (著)

「日本は戦争に勝った!」
無二の親友を引き裂いた「もう一つの戦い」の真実。
デマゴギーの流布と分断が進む現代に問う、渾身の巨篇。

沖縄生まれの勇と、ブラジルで生まれ育った日本移民二世のトキオ。一九三四年、日本から最も遠い地・ブラジルの日本人入植地「弥栄村」で出会った二人は、かけがえのない友となるが……。
第二次世界大戦後、異郷の地で日本移民を二分し、多数の死傷者を出した「勝ち負け抗争」。
共に助け合ってきた人々を過激な抗争へと駆り立てた熱の正体とはなんだったのか。
分断が加速しフェイクニュースが横行する現代にこそ問う、圧倒的巨篇。

 
【関連】
渡辺淳一文学賞 – 集英社

 


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