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『イラク水滸伝』高野秀行さん&山田高司さんが「第28回植村直己冒険賞」を受賞!

兵庫県豊岡市は2月16日、第28回植村直己冒険賞の受賞者を発表しました。今回2組が同時受賞となり、その1組に『イラク水滸伝』(文藝春秋)の著者・高野秀行さんと、同書のイラストを担当した旅の同行者にして探検家の山田高司さんがコンビで選ばれました。イラク南部の巨大湿地帯アフワールの謎に挑んだ二人の冒険と緻密な調査、その結実としてのノンフィクション大作『イラク水滸伝』が高く評価され、受賞となりました。

 

植村直己冒険賞について

植村直己冒険賞は、豊岡市が主催。同市出身で世界的な冒険家である植村直己さんの精神を継承し、不撓不屈の精神によって未知の世界を切り拓き、人々に夢と希望、そして勇気を与えてくれた創造的な行動(業績)を行った方に贈られます。

 
今回は、高野秀行さんと山田高司さんのほかに、ヒマラヤ・アンナプルナ山群の大渓谷「セティ・ゴルジュ」を探検した、田中彰さん&大西良治さんのお二人も同時受賞しています。

 

『イラク水滸伝』について

2023年7月26日に刊行された『イラク水滸伝』は、“現代最後のカオス”ともいうべき、権力に抗うアウトローや迫害されたマイノリティが逃げ込む謎の巨大湿地帯〈アフワール〉に挑んだ、異色のノンフィクションです。

 
中国四大奇書の一つ『水滸伝』は、悪政がはびこる宋代に町を追われた豪傑たちが湿地帯に集結し政府軍と戦う物語ですが、世界史上には、ベトナム戦争時のメコンデルタ、イタリアのベニス、ルーマニアのドナウデルタのようなレジスタンス的な、あるいはアナーキー的な湿地帯がいくつも存在してきました。

 
中でも、人類最古の文明の至近に存在してきたイラクの巨大湿地帯は、馬もラクダも戦車も使えず、巨大な軍勢は入れず、境界線もなく、迷路のように水路が入り組み、方角すらわからない、非常に特異なエリアです。

湿地帯を旅する高野秀行さん

湿地帯を旅する高野秀行さん

葦でつくった浮島(チバーシェ)

葦でつくった浮島(チバーシェ)

謎の秘教を信奉するマンダ教徒たちが隠れ、フセインの独裁に徹底抗戦した反骨の徒が集まり、水牛とともに生きる「水の民」マアダンが古代シュメール人さながらに生活するこの地を探検した記録は、ノンフィクション紀行としての圧巻の面白さとともに、中東史の裏側を浮き彫りにし、稀少な民族誌的記録ともなっています。

とくに、マアダンの生活文化における、水牛の乳からのゲーマル(生クリームやヨーグルトのようなもの)のつくり方や、葦による浮島(チバーシェ)のつくり方などの詳細を報告したのは世界初であり、代々湿地帯でつくられてきた独自のマーシュアラブ布(アザール)の緻密な調査も特筆すべき成果となっています。

フセインが造った堤防を壊した跡

フセインが造った堤防を壊した跡

アザール

アザール

水牛の乳のチーズづくりの光景

水牛の乳のチーズづくりの光景

浮島づくりの図解/イラスト」山田高司さん

浮島づくりの図解/イラスト」山田高司さん

本書は発売以降、各メディアで大きな反響を呼び、識者たちの高い評価を受けてきました。

「古代史、地域史、国際関係、宗教、グルメ、アートなどなど、極めて多くの学びを得ることができた本。高野秀行を知らなければ、人生を確実に損している!」
――丸山ゴンザレスさん(ジャーナリスト)

「読み出したらとまらない第一級のノンフィクション! 読了したときの感動。私は泣いてしまった」
――今井むつみさん(慶應義塾大学教授)

「オルタナティブなものをどうやったら描き出せるか? 僕はずっと高野秀行本に深くインスパイアされ続けてきた」
――東畑開人さん(臨床心理学者)

 

高野秀行さんのコメント

 自分のやっていることが植村直己冒険賞の対象になるとは思いもしなかったので、青天の霹靂。ただ、山田高司隊長はとっくの昔に同賞を受賞していておかしくない真の冒険探検家。隊長とコンビを組んだおかげだろう。また、『イラク水滸伝』という探検の「報告」が評価されたことはひじょうに嬉しい。30年以上も未知や謎を探求してきた甲斐があった。

伝統的な舟タラーデをこぐ山田高司さん(左)と高野秀行さん(中央)

伝統的な舟タラーデをこぐ山田高司さん(左)と高野秀行さん(中央)

 

受賞者プロフィール

 
■高野秀行(たかの・ひでゆき)さん

ノンフィクション作家。1966年生まれ、東京都出身。ポリシーは「誰も行かないところへ行き、誰もやらないことをし、誰も書かない本を書く」。早稲田大学探検部在籍中に書いた『幻獣ムベンベを追え』(集英社文庫)でデビュー。

『ワセダ三畳青春記』(集英社文庫)で酒飲み書店員大賞、『謎の独立国家ソマリランド』(集英社文庫)で講談社ノンフィクション賞と梅棹忠夫・山と探検文学賞を受賞。近著に『辺境メシ』(文春文庫)、『語学の天才まで1億光年』(集英社インターナショナル)など。

 
■山田高司(やまだ・たかし)さん

探検家、環境活動家。1958年生まれ、高知県出身。東京農業大学在学中の1981年に南米大陸の三大河川(オリノコ川・アマゾン川・ラプラタ川)をカヌーで縦断し、「青い地球一周河川行」計画をスタート。1985年にアフリカに渡り、セネガル川、ニジェール川、ベヌエ川、シャリ川、ウバンギ川、コンゴ川の川旅を成し遂げる。

1990年代後半から2000年代前半にかけて環境NGO「四万十・ナイルの会」を主宰。愛称は、山田隊長。

 

イラク水滸伝
高野 秀行 (著)

権力に抗うアウトローや迫害されたマイノリティが逃げ込む
謎の巨大湿地帯〈アフワール〉
―――そこは馬もラクダも戦車も使えず、巨大な軍勢は入れず、境界線もなく、迷路のように水路が入り組み、方角すらわからない地。

中国四大奇書『水滸伝』は、悪政がはびこる宋代に町を追われた豪傑たちが湿地帯に集結し政府軍と戦う物語だが、世界史上には、このようなレジスタンス的な、あるいはアナーキー的な湿地帯がいくつも存在する。
ベトナム戦争時のメコンデルタ、イタリアのベニス、ルーマニアのドナウデルタ……イラクの湿地帯はその中でも最古にして、“現代最後のカオス”だ。

・謎の古代宗教を信奉する“絶対平和主義”のマンダ教徒たち
・フセイン軍に激しく抵抗した「湿地の王」、コミュニストの戦い
・水牛と共に生きる被差別民マアダンの「持続可能な」環境保全の叡智
・妻が二人いる訳とは?衝撃の民族誌的奇習「ゲッサ・ブ・ゲッサ」
・“くさや汁”のようなアフワールのソウルフード「マスムータ」
・イスラム文化を逸脱した自由奔放なマーシュアラブ布をめぐる謎……etc.

想像をはるかに超えた“混沌と迷走”の旅が、今ここに始まる――
中東情勢の裏側と第一級の民族誌的記録が凝縮された圧巻のノンフィクション大作、ついに誕生!

 
【関連】
2023「植村直己冒険賞」受賞者が決定しました|豊岡市公式ウェブサイト
イラク水滸伝 | 立ち読み | 文藝春秋BOOKS

 


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