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「危機の時代」を映しだす世界文学の最前線を鴻巣友季子さんが読み解く『文学は予言する』が刊行

鴻巣友季子さん著『文学は予言する』

鴻巣友季子さん著『文学は予言する』

翻訳家・文芸評論家の鴻巣友季子さん著『文学は予言する』(新潮選書)が新潮社より刊行されました。

著者の鴻巣友季子さんは、J.M.クッツェーやM.アトウッド、A・ゴーマンといった世界的作家の翻訳を手がけるかたわら、エミリー・ブロンテ『嵐が丘』やマーガレット・ミッチェル『風と共に去りぬ』といった古典の新訳も手がけてきた第一線の翻訳家です。

また、朝日新聞文芸時評、毎日新聞読書面、文芸誌各誌での書評を長年にわたり担当してきた「小説を読むプロ」としても広く知られています。本書は、そんな鴻巣さんが国内外の文学の最前線をふまえ、解説する圧巻の文学案内です。

 

文学の「予言」から、世界の潮流が見えてくる! カズオ・イシグロさん、アトウッドさんから多和田葉子さん、村田沙耶香さんまで、「危機の時代」を映しだす世界文学の最前線を第一級の翻訳家が読み解く圧倒的な文学案内!

この十年ほどの間に、国内では東日本大震災、東京オリンピック招致と延期、元首相の暗殺、世界ではイギリスのEU離脱、アメリカの政権交代と議事堂襲撃事件、新型コロナウイルスによる地球規模のパンデミック、大国ロシアによるウクライナ侵攻といった予想だにしない出来事が起きました。各国の内向き志向や社会の分断、人びとの閉塞感や不満がさまざまな場所で指摘されています。

 
そんな中、トランプ政権誕生時にはジョージ・オーウェルのディストピア小説『1984年』がベストセラーになり、新型コロナのパンデミックが始まるとカミュの『ペスト』がこぞって買い求められました。これらの現象は、文学のもつ「予言」の力を多くの人が実感し、そこから教訓を得ようとしているのだと話題になりました。

 
この間、鴻巣さんはさまざまな媒体に国内外の最新小説についての書評や文芸評論を発表してきましたが、それらの評論には一貫して、小説が世界の「いま」を映し出しているという実感が通底しています。文学には、混迷の時代を見通すためのヒントが隠されているのです。

 
鴻巣さんの各紙誌での評論をまとめた本書には、大きく3つのキーワードがあります。それは「ディストピア」「ウーマンフッド」「他者」です。

 
最前線の文学キーワードその1――「ディストピア」(独裁、AI、SNS)

トランプ政権誕生時に『1984年』と並んでリバイバルヒットし、その後も作中に描かれた「予言」が当たり続けていると話題になっているのは、M.アトウッドさんのディストピア小説『侍女の物語』です。女性を4つの階級に分け、最下層を“産む機械”として扱う本作は、アメリカで今年、中絶禁止法を合憲とする最高裁判断が下った際にも大きな話題となりました。

本書では『侍女の物語』をはじめとするディストピア小説の歴史と現在を紹介するほか、『フランケンシュタイン』から現代のAI小説にいたるまでの「命」や「人間」の定義をめぐる小説や、SNSの「つながり」の裏にある個人データ収集を描いた作品など、ディストピアの最新形まで取り上げています。

 
最前線の文学キーワードその2――「ウーマンフッド」(女性、フェミニズム)

『侍女の物語』がヒットした背景には、フェミニズムの躍進もありました。そうした世界的な潮流も踏まえながら、本書では『オデュッセイア』から18世紀の少女小説に至るまで変わることなく描写されてきた性加害の構造や、『ファウスト』や『風と共に去りぬ』で描かれた理想の女性像の歴史を振り返っています。

そして現代の女性をめぐるルッキズムや身体の問題を描いた最新小説にも注目し、村田沙耶香さんや川上未映子さんといった日本の作家による、女性の生きづらさを描いた作品が世界的な評価を得ている状況を解説しています。

 
最前線の文学キーワードその3――「他者」(多様性、翻訳)

日本語の小説がいま世界で高い評価を受けているのは、文学のグローバル化や翻訳がますます進んだことも一因です。しかしそうした多様化によって、文化の衝突や摩擦も浮き彫りとなっています。

本書では、「翻訳の政治性」をめぐる最新のトピックや、近年の世界的文学賞にノミネートされる少数言語作品を紹介しながら、多言語的状況の中で新しい表現を生み出している国内外の作品についても取り上げています。

 

著者コメント

社会の分断、パンデミック、戦争……わたしたちの予想や予測をつぎつぎと越える現実世界の展開に、文学のほうがリアルに追い抜かれそうな印象すらあるかもしれません。しかし文学にはいつも、いま起きていることはすでに書かれていました。文学ははるか以前に「予言」していたのです。ディストピア小説にかぎらず、すべての小説は、すでに起きていながら多くの人の目に見えていないことを、時空をずらして可視化する装置です。本書をお手に取っていただければ、そのことをきっと実感していただけると思います。

 

本書の構成

はじめに

第一章 ディストピア
1 抑圧された世界――ディストピア小説のいま
2 『侍女の物語』の描く危機は三十五年かけて発見された
3 大きな読みの転換――『侍女の物語』と『密やかな結晶』
4 拡張する「人間」の先に――ポストヒューマニズムとAI小説
5 成功物語の限界――メリトクラシー(能力成果主義)という暗黒郷
6 もはやリアリズムとなったディストピア

第二章 ウーマンフッド
1 舌を抜かれる女たち
2 男性の名声の陰で
3 シスターフッドのいま
4 雄々しい少女たちの冒険
5 からだとケア労働
6 文学における女性たちの声

第三章 他者
1 原作者と翻訳者の無視できないパワーバランス
2 パンデミックの世界に響く詩の言葉
3 リーダーの雄弁術
4 盛りあがる古典の語り直し
5 ますます翻訳される世界――異言語と他者性のいま
6 多言語の谷間に――多和田葉子
7 日本語の来た道――奥泉光
8 小説、この最も甚だしい錯覚
9 アテンション・エコノミーからの脱却――それは他者と出会うこと

おわりに

 

著者プロフィール

著者の鴻巣友季子(こうのす・ゆきこ)さんは、1963年生まれ、東京都出身。翻訳家、文芸評論家。

訳書にJ・M・クッツェー『恥辱』(ハヤカワepi文庫)、M・アトウッド『誓願』(早川書房)、A・ゴーマン『わたしたちの登る丘』(文春文庫)等多数。E・ブロンテ『嵐が丘』(新潮文庫)、M・ミッチェル『風と共に去りぬ』(全5巻、同)、V・ウルフ『灯台へ』(『世界文学全集 2-01』収録、河出書房新社)等の古典新訳も手がける。

著書に『明治大正 翻訳ワンダーランド』(新潮新書)、『翻訳教室』(ちくま文庫)、『翻訳ってなんだろう?』(ちくまプリマ―新書)、『謎とき『風と共に去りぬ』』(新潮選書)、『翻訳、一期一会』(左右社)等多数。

 

文学は予言する (新潮選書)
鴻巣 友季子 (著)

小説から見通す世界の「未来」とは――圧倒的な文学案内

トランプ政権誕生で再びブームとなったディストピア小説、
ギリシャ神話から18世紀の「少女小説」まで共通する性加害の構造、
英語一強主義を揺るがす最新の翻訳論――
カズオ・イシグロ、アトウッドから村田沙耶香、多和田葉子まで、危機の時代を映し出す世界文学の最前線を、数々の名作を手がける翻訳家が読み解く。

「次に読みたい小説」が見つかる、“最新の世界文学地図”

〔本書で紹介するおもな作家とキーワード〕

「ディストピア」……マーガレット・アトウッド、村田沙耶香、小川洋子、J.M.クッツェー、カズオ・イシグロ etc.
(メリトクラシー、リプロダクティブ・ヘルス/ライツ、ポストヒューマニズム、キャンセル・カルチャー)

「ウーマンフッド」……ヴァージニア・ウルフ、桐野夏生、川上未映子 etc.
(精神的吸血、シスターフッド、ルッキズム、ケア労働)

「他者」……アマンダ・ゴーマン、多和田葉子、奥泉光 etc.
(当事者表象、スポークンワード、英語帝国主義、生まれつき翻訳小説、アテンション・エコノミー)

 


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