ウクライナ研究の先駆者・中井和夫さんの名著『ウクライナ・ナショナリズム――独立のディレンマ』を緊急復刊!
東京大学出版会は、東京大学名誉教授・中井和夫さん著『ウクライナ・ナショナリズム――独立のディレンマ』(1998年刊)の販売を開始しました。本書はながらく品切状態でしたが、ロシアによるウクライナ侵攻を受け、この異常事態を理解するための正確な知識と分析をふたたび提供すべきと判断し、緊急復刊に踏み切りました。
ウクライナ危機を理解するために不可欠な名著を緊急復刊
<本書の概要>
1991年に独立国となり、ヨーロッパとロシアのあいだで揺れ続ける、旧ソ連の大国ウクライナ。本書は、ウクライナのナショナリズムに焦点を当て、第二次世界大戦からペレストロイカに至る軌跡と独立のプロセスを描き出し、さらには独立後に直面するディレンマを明らかにします。
【塩川伸明・東京大学名誉教授(ロシア政治)推薦】
「日本におけるウクライナ研究の先駆者である中井和夫氏の手になる本書は、ソ連時代から独立後にかけての政治史を多角的に解明して、『独立のディレンマ』を浮き彫りにしている。今日の情勢の背景を知る上で必読の書である。」
本書より(一部抜粋)
本書はウクライナ・ナショナリズムに焦点をあてて、ソ連時代のウクライナにおける民族運動およびロシアとウクライナの関係、そしてソ連解体後の民族関係について検討を加えたものである。
(中略)
ソ連の民族問題を検討することは、地球全体の諸民族の関係を、地球そのものの破壊を招かないような方法で、どのように調整していくべきかについての示唆を与えてくれるものであろう。ナショナリズムとは何であり、どのような力を有し、人びとの生活にどのような影響を与えてきたのかを知ることは、ナショナリズムの世紀が終わろうとしている今こそ真摯に検討されるべきものであろう。(「はじめに」より)
ソ連解体の前と後とでは、ロシア・ナショナリズムに一種の質的転換が起こっていることに注目する必要がある。
(中略)
ロシアは追い詰められているというふうに自分たちを感じはじめたので、その反発として再び拡張主義に走る可能性があるのである。その典型的な例はロシアの最高会議が、ウクライナの領土であるクリミア半島のセヴァストーポリ領有を1993年7月に決議したことに示されている。
ロシアが再び大ロシア主義に転じると、旧ソ連地域の民族関係は急速に緊張する可能性が高い。それは、カザフスタン北部やウクライナのドンパス地方のようなロシア人が多く住んでいる地域の「回収」、ロシア連邦の外に住むロシア人の保護を要求する動きにつながる可能性があるからである。
(「おわりに」より)
本書の構成
はじめに――ナショナリズムの現在
第一章 ウクライナ・ナショナリズムの歴史と特質
一 ウクライナ民族運動の系譜
二 ウクライナとロシア――東スラヴのアイデンティティ
三 クリミアとオデッサ――多民族性の喪失
第二章 ウクライナ化を求める運動――60年代からペレストロイカへ
一 シェレストとシチェルビツキー――二人の第一書記
二 ウクライナ語をめぐる運動――第三のウクライナ化
三 ユニエイト教会への道
第三章 独立へ――ソ連からの「退出」
一 主権宣言から独立宣言へ
二 ウクライナにおける分離と独立
三 ソ連からの「退出」
第四章 独立のディレンマ
一 CISとウクライナ
二 独立のディレンマ(1)――権威主義と経済再建
三 独立のディレンマ(2)――国民統合の困難性
四 独立のディレンマ(3)――ウクライナのゲオポリティカ
おわりに――民族関係論への展望
あとがき
著者プロフィール
著者の中井和夫(なかい・かずお)さんは、1948年生まれ。1973年東京大学教養学部卒業、1979年同大学大学院博士課程単位取得退学。秋田大学教育学部助教授、東京大学大学院総合文化研究科教授を経て、現在は東京大学名誉教授。日本における数少ないウクライナの専門家として、学界を牽引してきた。
おもな著書に『ソヴェト民族政策史』(御茶ノ水書房、1988年)、『連邦解体の比較研究』(共著/多賀出版、1998年)、『ポーランド・ウクライナ史』(共編/山川出版社、1998年)など。
ウクライナ・ナショナリズム: 独立のディレンマ 中井 和夫 (著) 本書は第二次世界大戦後、ウクライナが独立にいたるプロセスと独立後のディレンマについて書いたものである。自決(self‐determination)を求め、独立を獲得するまでのナショナリズム・フェーズ1と独立後に直面する新しいナショナリズム・フェーズ2の双方を書こうと試みた。ナショナリズムをめぐる諸問題は独立によってすべて解決するわけではないからである。 |
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