本のページ

SINCE 1991

和田誠さんエッセイ『わたくし大画報』が42年ぶりに復刊!

“めったに自分を語らない”希代のイラストレーターによる「家族と仕事と趣味」のエッセイ、和田誠さん著『わたくし大画報』が42年ぶりにポプラ社より復刊されました。

自分のことを書くというのは、照れくさいものである。そう思いつつ、ずいぶん書いてしまった――妻・平野レミさんとのエピソードから、はじめての育児、「週刊文春」の表紙イラストや装丁の仕事まで。 谷川俊太郎さんや篠山紀信さん、渥美清さん、向田邦子さんら著名人との驚くべき交友録も盛りだくさん。“めったに自分を語らない”和田誠さんが自分について書いた貴重なエッセイです。

 

和田誠さんの貴重なエッセイを42年ぶりに復刊! 和田誠さんのエッセイを101本、イラストを79点収録!

2021年10月から2023年10月まで、東京、熊本、新潟、岡山、京都、愛知と6都市・7会場を巡回した「和田誠展」の大盛況ぶりは大きな話題となりました。どの会場も多くの来場者が訪れ、最終日には長蛇の列に。和田誠さんがかかわったお仕事の数々に圧倒された方も多いのではないでしょうか。

 
200冊以上の著作を残した和田誠さん。装丁やイラストのお仕事も加えると枚挙にいとまがありません。しかしながら、ご自身やご家族について書いた本は少ない。妻・平野レミさんも「和田さんは自分を表に出したりしない人」とおっしゃいます。

 
そんな”めったに自分を語らない”和田誠さんが、家族や仕事、趣味、交友関係などを書いた貴重なエッセイが『わたくし大画報』です。この度42年ぶりに復刊することとなりました。

復刊のきっかけは、NHK「趣味どきっ!」という番組。平野レミさんが自身の本棚を紹介し、好きな本の魅力を語るというものでした。そこでご自宅の本棚にある『わたくし大画報』のページを開きながら、「この本おっかしくってさ」とたのしそうに話すレミさん。その姿を編集者が見ており、復刊のご依頼をしたのでした。

 
妻・平野レミさんや著名人の似顔絵のみならず、貴重な自画像など貴重なイラストを79点収録。エッセイは101本収録。ご家族とのエピソードやご自身のプライベートなお話から、当時の書籍や映画、舞台などのカルチャーを知る手がかりともなるものまで多岐にわたります。

 

『わたくし大画報』より(抜粋)

 
■「描くということ」より

妻が突然「絵を習うことにした」という。先生の教え方がうまいとみえて、短期間に長足の進歩をとげた。絵なんてものは、誰だって描けるもので、シロウトだから書けない、と自分で思うから描けないだけなんです。ちょっと慣れて先生からも「うまいよ」なんて言われると自信がついて本当にうまくなっちゃう。妻は毎月連載で書く文章に自分で挿絵なんか描いている。これが結構さまになっていたりするので、プロである亭主は困ることもあるのだ。「手伝ってるんだろ」と言われるからである。

 
■「家庭大入浴」より

赤ん坊と生活するのは一種の闘いでありまして、何故なら赤ん坊ほどエゴイズムむき出しの生物はいないのではないか。自分の都合でぐずる、泣き叫ぶ。その度に大人は原因を究明すべく努力をし、ミルクを与え、おむつを変え、抱く、あやす、のテンテコ舞イ。そのため仕事の予定が大幅に狂うこと、しばしばであります。しからばそういう生き物が憎らしいかと言えば、そんなことはない。赤ん坊というのは、泣くばかりではありませんから。すなわち、笑うのね。ケケケと声を立てて笑うことすらある。実際、この笑顔を見るためなら、何物をも犠牲にしてもいい、という気持ちになっちゃうのですね。

 
■「雨降りレポート」より

ぼくは毎日仕事場に出かけてゆくのだが雨降りは億劫である。しかしさぼれない。人に雇われているわけではないので、さぼるのは勝手かと言うと、それもできない。約束がたくさんあるからわがままが言えないのだ。仕事の締め切りがもちろんあるし、新しい仕事の打ち合わせの時間が取り決めてある。こんなにアクセク働く必要はないんじゃないかと、自分に言い聞かせたくなるくらい、三十分刻み十五分刻みに約束に追われる日もある。でもイヤな仕事は引き受けない原則だから、このスケジュールがつらくて仕方がない、というわけでもないのだ。

 
■「あとがき」より

ぼくは普段日記などはまったく書かない男で、自分の行動を書きつけるなんて、小学校依頼のことである。その後三十年ほどたって、この「大画報」である。かつては日記を書いて行かないと学校で先生に叱られたが、今は締切という束縛があり、守らないと編集者に叱られる。しかし締切に追われて書いたおかげで、そうでなければ忘れてしまう子どもの言動などを記録しておくことはできた。読者とは関係なく、わが家としては、つまらぬ記録でもないようりあった方がいい。読者には申し訳ないが、そこが「わたくし大画報」たるゆえんである。読み返してみると、こんなこともあったっけ、と、たった数年前のことなのにいやに懐かしくおもってしまう事柄もある。

 

糸井重里さんも推薦!

和田誠さんと親交が深く、たくさんのお仕事も一緒になさってきた糸井重里さんが推薦文を寄せています。

 
「ひとりの人間の中に、こんなに大量の『おもしろい』があっても、よいものなのだろうか。」
――糸井重里さん

 
和田さんが糸井さんについて書いたエッセイも収録。抜粋して紹介します。

「情熱のペンギンごはん」という本がありましてね、版元は情報センター出版局。著書は糸井重里と湯村輝彦。この本は何と言ったらいいんでしょうねえ、題名を聞いただけで、何だか胸踊る感じさえするのだが、漫画と言うべきか、劇画というべきか、実に妙ちきりんで猥雑で面白可笑しいのである。糸井重里という男はコピーライターが本業であるが、ジュリーが歌った例の「TOKIO」の作詞者でもある。湯村輝彦はぼくと同業、つまりイラストレーター。原作糸井、絵が湯村。

湯村輝彦の絵というものは、ご存知の方はご存知であろうが、うっかりすると、何だ、この下手糞、と言いたくなる絵。しかしながら実は、彼はたいそう絵のうまい人で、うまい人が一見下手糞ふうに描く凄み、とでも言いましょうか。そういうしたたかな連中の作る本だからね、ちょっと唖然とするわけだが、唖然とした上で、やられたなあ、とも思う。ナンセンスなどというものをさらに超えちゃってるわけで、ぼくは憧れてしまうのだ。
(「情熱のペンギンごはん」より)

 

『わたくし大画報』復刊に寄せて――平野レミさんからのメッセージ

NHKの「趣味どきっ!」で私が「この本おっかしくってさ」って『わたくし大画報』を紹介しているのをポプラ社の辻さんが見ていて、本の復刊をしませんかって連絡がきたんです。1982年に出た本だから、復刊は42年ぶり。そんなに時間が経っちゃったのね。

 
この本は私の宝物。だって私のことが書いてあるんだから。和田さんは自分の世界をちゃんと持っていて、家に帰っても映画ばっかり見てる。自分の話もめったにしない。私のことをどう思ってるかもよく知らなかった。でもこの本を読んだら私や息子たちのことがたくさん、しかもおもしろおかしく書いてある。私のことなんて絶対に書かないと思ってたから驚いちゃった。こんなふうに見てたんだなって嬉しくなりました。ちゃんとチェックしてたのね。そういう和田さんですよ。

 
糸井重里さんの推薦文もとってもいいわよね。「ひとりの人間の中に、こんなに大量の『おもしろい』があっても、よいものなのだろうか。」ですって。糸井さんうまいですよね。素敵な文章を寄せてくださって、どうもありがとうございました。

 
和田さんはもういないけど、本を開けばまた和田さんに会える。ちょっとずつちょっとずつ読んでいます。たくさん会いたい気持ちを我慢して。だって、“お楽しみはこれからだ”ですから(笑)。

2024年3月11日 平野レミ

 

本書の目次より(抜粋)

・猫について
・俳人二十面相
・家庭大料理
・晴れた日・または篠山紀信
・カレーライスについて
・谷川俊太郎の33の質問と清水哲男のスピーチ・バルーン
・描くということ
・出産大報告
・赤ん坊大転落 他

・装幀のこと
・植草さんのお葬式にはアルトサックスとトランペットが鳴り響いた
・三人の恩師と二つの装幀について
・ひとコマ漫画と欧米人の反応について
・情熱のペンギンごはん
・わたくしにとって日本語とは何か
・父親レポート
・翻訳について
・歌仙・私家版日本語文法・窓ぎわのトットちゃん
・悩み多き今日この頃
・戦争の犬たちなど
・向田さん 他

 

わたくし大画報
和田 誠 (著)

 


コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です