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NHK「宗教の時間」で反響を呼んだ講座を書籍化!『物語としての旧約聖書 人類史に何をもたらしたのか』が刊行

NHK「宗教の時間」で反響を呼んだ講座を書籍化した、古代オリエント学・旧約聖書学などの碩学である月本昭男さんの著書『物語としての旧約聖書 人類史に何をもたらしたのか』(NHKブックス)がNHK出版より刊行されました。文明史の結実である『旧約聖書』に記された「物語」から人類への警鐘と希望をいま、あらためて読み解きます。

 

ユダヤ教の成立の基礎となり、キリスト教誕生の土壌となり、さらにイスラームにも浸透した旧約聖書。

ヘブライ語による旧約聖書には、古代イスラエルの人々の宗教観や、地域の慣習などが色濃く反映されており、残された字面のみで解釈するには困難を伴う、謎めいた物語が展開されています。

 
それらの「謎」について、本書では図版資料もまじえながら総合的・学際的見地から考察します。歴史的な役割と、人類の思考の普遍を知るための一冊です。

旧約聖書三九書の配列(ヘブライ語原典と現行翻訳聖書の違い)

旧約聖書三九書の配列(ヘブライ語原典と現行翻訳聖書の違い)

第8章「カナン定住 嗣業の地の配分」より、旧約聖書関連地図

第8章「カナン定住 嗣業の地の配分」より、旧約聖書関連地図

 

本書「はじめに」より

聖書には、旧約聖書と新約聖書があり(略)旧約聖書のほうは、大小39の書から構成されています。そのほぼ半分は古代イスラエルの先祖たちの物語や王国の歴史記述ですが、預言者たちの言葉、イスラエルの民が詠った詩歌、さらに短編小説を思わせる物語や人生を省察した作品などがそこに加わります。聖書と呼ばれるので、堅苦しい宗教的な教えを思い浮かべる方もおられるかもしれませんが、そこには人間味あふれる物語が少なくありません。

(略)

ユダヤ教の聖書がキリスト教に受容されることにより、旧約聖書に伝わる思想の多くもキリスト教へと引き継がれました。唯一神観、自然観、歴史観、人間観など、キリスト教思想の多くは旧約聖書に由来します。それだけではありません。ユダヤ教やキリスト教を介して、旧約聖書の物語や思想はイスラム教にも受け継がれました。初期のイスラム教徒が自分たちを創世記に物語られるアブラハム(イブラヒム)の子孫と理解したことなどは、その一例です。

旧約聖書を残した古代イスラエルの民は、紀元前1200年前後にパレスチナに定住した弱小の一民族でした。紀元前1000年ころに王政に移行したあとも、彼らは弱小の民であるがゆえに、南のエジプトと東のメソポタミアに興ったアッシリアやバビロニアといった大国のはざまで翻弄され続けました。王国は南北に分かれ、北王国は紀元前七二二年にアッシリアに滅ぼされ、南のユダ王国は紀元前586年にバビロニアによって滅ぼされ、主だった人々は失ってバビロニア捕囚民となりました。捕囚から帰還した紀元前6世紀後半以降、エルサレムを中心とする彼らの地はペルシア帝国の一属州になり、ペルシア帝国が滅亡してからは、エジプトのプトレマイオス朝の、またシリアのセレウコス朝の支配下に組み込まれました。旧約聖書に記されたもっとも新しい時代は、マカベア戦争と呼ぶ、ユダヤの民が蜂起し、セレウコス朝に独立戦争を挑んだ紀元前二世紀前半です。その後、独自の王政が敷かれた時期もありますが(略)反ローマ独立戦争に敗れたユダヤの民は故地を失い、世界に散在する民(ディアスポラ)となるのです。

古代イスラエルのこのような歴史のなかで、旧約聖書は書き記されました。そしてそれが、ユダヤ教成立の基礎となり、キリスト教誕生の土壌となり、イスラム教にまで浸透しました。当時の古代オリエントの強大国に翻弄され続けた弱小の民が残した旧約聖書は、こうして、その後の宗教の歴史にはかりしれない影響をおよぼすことになりました。それは人類宗教史に生起した一大逆説と呼びうるような現象です。

(略)

本書では、ヘブライ語で伝わる旧約聖書にもとづき、古代西アジア文明地の一隅に歴史を刻んだイスラエルの民が伝える物語をたどりながら、そこにたたみ込んだ思想と信仰の特色を探ってゆきます。それによって、人類の宗教史にはかりしれない影響をおよぼしえた旧約聖書の秘密の一端を、また旧約聖書のもつ今日的意義の一端を明らかにできれば、と願っています。

 

本書の構成

はじめに

 旧約聖書三九書の配列
 旧約聖書時代の初期カナンの地図

第1章 天地創造 人間と自然の調和を願って

第2章 エデンの園 人間は塵から造られ塵に帰る

第3章 カインの末裔 都市文明への批判的視座

第4章 大洪水 物語の現代的意味 

第5章 アブラハム おそれとおののきのなかで

第6章 ヤコブとその子ら 目に見えない神の摂理

第7章 出エジプト 苦境からの解放

 十戒比較一覧  
 旧約聖書関連地図  

第8章 カナン定住 嗣業の地の配分  

第9章 ダビデとその後 翻弄される王国 

第10章 預言者の言葉 時代批判と将来への希望  

第11章 預言者群像 その素顔と個性  

第12章 小さき者たちの神 多様性と逆説性  

 古代イスラエル略年表

あとがき

 

著者プロフィール

月本昭男(つきもと・あきお)さんは、1948年生まれ、長野県出身。東京大学文学部卒業。同大大学院人文社会科学研究科中退。ドイツ・テュービンゲン大学修了(Dr. Phil.)。1981年より立教大学勤務、2014年3月、同大学キリスト教学科教授退任。同大学名誉教授。2014年4月~2022年3月、上智大学特任教授。同大学名誉教授。現在、古代オリエント博物館館長。経堂聖書会所属。

著書に『目で見る聖書の時代』(日本キリスト教団出版局)、『詩篇の思想と信仰』Ⅰ~Ⅵ(新教出版社)、『古典としての旧約聖書』(聖公会出版)など。

2018年度、NHK「宗教の時間」で通年『物語としての旧約聖書』を講じた。

 

 


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