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27年ぶりの「幻の新刊」! 冷戦終結期に「戦争の世紀」の再来を“予言”した幻の名講演を初書籍化――高坂正堯さん『歴史としての二十世紀』が刊行

京都大学法学部教授で、佐藤栄作総理のブレーン、報道番組「サンデープロジェクト」のコメンテーター、そして熱烈な阪神ファンとしても知られた国際政治学者・高坂正堯さん(1934生~1996没)の新刊『歴史としての二十世紀』(新潮選書)が新潮社より刊行されました。

 

「戦争の世紀」が再来した今こそ、高坂史観が役に立つ!

本書は、高坂正堯さんが1990年1月~6月に新宿紀伊國屋ホールで行った6回連続の講演「歴史としての二十世紀」の録音をもとに新たに構成した27年ぶりの「新刊」となります。

 
講演が行われたのは、1989年11月に「ベルリンの壁」が崩壊した直後。世界じゅうが冷戦終結で平和な時代がやってくると浮かれていた時期に、高坂さんはあえて戦争の危機について語り、「ロシアに大国をやめろと強制することはできない」(47頁)のだから、冷戦後の国際秩序はロシアも「ひとかどの顔が立つ」ように仕向けなければならないと警告していました。

 
その他、「イスラエルが中東でやっていることを見ると、気が気ではない」(206頁)など、あたかも現在の状況を見通していたかのような洞察が次々と語られ、あらためて稀代の国際政治学者の凄みを感じさせる内容となっています。

 
【本書の内容】

「〈いい人〉の政治家が戦争を起こすことがある」「ロシアに大国をやめろと強制することはできない」――戦争の時代に逆戻りした今、現実主義の視点から「二度の世界大戦」と「冷戦」を振り返る必要がある。世界恐慌、共産主義、大衆の台頭、文明の衝突……国際政治学者の「幻の名講演」を初の書籍化【解題:細谷雄一】。

 
<慶應義塾大学教授・細谷雄一さん推薦!>

読者の皆さんには、今から33年前に新宿紀伊國屋ホールの受講者がおそらくそうであったように、高坂教授の語り言葉を楽しんで頂き、さらには過ぎ去った「歴史としての二十世紀」が、実は依然としてわれわれの生きている世界の岩盤として地中に埋まっているという現実を感じて欲しい。その意味では、本書の価値は色あせていないどころか、むしろ、目の前で起きている戦争によって巨大な地殻変動が起きているからこそ、よりリアリティがあるものとして眼前に迫っているのではないか。ぜひとも、「歴史としての二十世紀」とは何だったのか、高坂教授の柔らかな語り口を通じて、「眼」を通して聴いて頂ければ幸いである。

 

本書の構成

はじめに――「我々がどのような時代に生きてきたか」 細谷雄一

第一回 戦争の世紀――世界戦争と局地戦争
一九一四年七月二八日/突破が困難な「死の地域」/塹壕に無力となった第二波突撃/仏軍歩兵操典の再改定/プラッシーの戦いで英軍が勝った理由/第一次大戦の前哨戦となった日露戦争/総力戦時代の「銃後」/「いい人間たち」が起こした戦争/「権力に対する意識の欠如」/三十年戦争のトラウマ/欧州の真ん中にあるドイツ/モルトケとシュリーフェン/国際法違反のベルギー侵攻/最悪のシナリオ/「メイド・イン?」は一世紀前の貿易摩擦の証/「生存競争」としての国家間戦争/冷徹な第二次大戦の指導者/クラウゼヴィッツ『戦争論』の限界

第二回 恐慌――大成の前の試練
失業率二五%の衝撃/フーバーとルーズベルト/大恐慌が起こった理由/「アメリカはナイアガラ」/大国にふさわしい通商政策/米関税が下がらなかった理由/高関税になる「ログローリング」/ウィルソン大統領の挫折/禁酒法と一〇〇〇ドルディナー/繁栄と享楽の一九二〇年代/対米債務と低金利政策/責任感なき国際リーダー/コンドラチェフの波/ルーズベルトの心理政策/国家による経済不介入の原則/産業構造を転換させた戦争/アメリカにとっての教訓

第三回 共産主義とは何だったのか
無謬のマルクス主義/大粛清・スペイン内戦・独ソ不可侵条約/許しを請うて処刑された人々/前衛党の民主集中制/強引な工業化/人々を説得したスターリンの演説/「農業集団化」の実情/農民階級の抹殺/「絶対窮乏化」理論/終末論的楽観論の極致/フォード式生産方式と「大祖国戦争」/「真理省」・「平和省」・「豊富省」/立ち遅れた技術革新/野次馬的批判精神/共産主義歴七〇年と四〇年/「ユートピア」の存在意義/ラグビーボールの哲学

第四回 繁栄の二五年
空前の経済成長/一九二二年の『さよならアメリカ』/「コカ・コロナイゼーション」/ラジオと自動車という文明の利器/コマーシャルと分割払い/豊かさが消した将来への悲観論/イブン・ハルドゥーンの「アサビーヤ」/西側の経済発展を牽引した冷戦/ケインズとホワイト/西欧と日本が経済復興できた理由/優秀な技術者は軍事産業へ/政治システムと大学の変質/戦後生まれ世代の反抗/「失われた一八年」/福祉政策による経済効果/肥大化する政治機能

第五回 大衆の時代――資本主義と民主主義
資本主義は正しいか?/大衆の時代/合理主義と大衆民主主義は両立しうるか?/資本蓄積のための迂回生産/プロテスタンティズムと土光敏夫/ダニエル・ベルの「公的家計」/福祉国家の欠陥/日本の貯蓄率/「家族動機」と「不在資本家」/危うい「資本主義のパラドックス」/電子取引と金融情報化/アダム・スミスの「道徳」観/「マイダス・タッチ」/借金は罪である/日本の政治家が二流である理由/土地収用ができない二つの国

第六回 異なる文明との遭遇
世界と西欧/「非暴力主義」と日露戦争/バリ島の集団自殺事件/「いったん攘夷のち開国」/モンテスキューの「国民」/規則正しく無秩序なドイツ人/イタリア人のドイツ人嫌い/「日本異質論」の世界史的意義/エジプトの「和魂洋才」/ヘロデ派対頑固派/日本人の「ちっぽけな良心」/帝国主義の救いの美徳/バリを愛したドイツ人の数奇な生涯

解題――高坂正堯が我々に託したもの 細谷雄一

 

著者プロフィール

高坂正堯(こうさか・まさたか)さんは、1934年生まれ、京都市出身。京都大学法学部卒業。1963年「中央公論」に掲載された「現実主義者の平和論」で鮮烈な論壇デビューを飾る。1971年、京都大学教授に就任。

『古典外交の成熟と崩壊』で吉野作造賞受賞。佐藤栄作内閣以降は外交ブレーンとしても活躍。新潮選書から刊行した『世界史の中から考える』『現代史の中で考える』『文明が衰亡するとき』『世界地図の中で考える』がいずれもベストセラーとなる。 1996年、逝去。

 

 
【関連】
試し読み | 高坂正堯 『歴史としての二十世紀』 | 新潮社

 


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