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安西水丸さんが最後に遺した抒情漫画集『陽だまり』が刊行 村上春樹さん、角田光代さん、平松洋子さん、柴門ふみさん、木内達朗さん、信濃八太郎さんのエッセイも収録

故・安西水丸さんが遺した〈最後の抒情漫画集〉『安西水丸が遺した最後の抒情漫画集 陽だまり +エッセイ「安西水丸さんのこと」村上春樹他』が講談社より刊行されました。村上春樹さんがユーモアたっぷりに水丸さんを語った一編ほか、6人のクリエーターが水丸さんの魅力を綴ったエッセイも収録。

 

今なお愛され続ける個性的な才人・安西水丸さんが最後に遺した、ちょっとエロくて胸に染み入る抒情漫画集『陽だまり』

比類なき個性で日本のイラストレーション界をリードし、小説家、絵本作家、漫画家、エッセイスト、翻訳家としても多くの作品を残した、異才にして多才の人・安西水丸さんが亡くなって9年が経ちます。いまだに人気は衰えず、2021~22年に世田谷文学館他で開催された展覧会は、コロナ禍にもかかわらず連日行列ができるほどで、没後に刊行された著書は10冊を超えました。

 
その水丸さんは晩年、「小説現代」に読み切り漫画を連載していましたが、急逝されたためシリーズは4本で中断してしまいました。作品は、いまだ伝説となっている水丸さんの漫画デビュー作『青の時代』の流れを汲み、抒情的で独特のエロティシズムに溢れています。

この4本の読み切り漫画に、水丸さんと関係が深かった作家、漫画家、イラストレーターの方々――村上春樹さん、角田光代さん、平松洋子さん、柴門ふみさん、木内達朗さん、信濃八太郎さんの6人に、彼らだけが知る水丸さんの魅力を語ってもらったエッセイを合体させました。

ごくごくシンプルなのに誰にも似ていない。そんな安西水丸さんの魅力を再確認できる一冊です。

 
<収録作品>

◎「陽だまり」
高村純、26歳。込山組の金融部門で、取り立て屋の品田老人について仕事をしている。純は、品田老人と2年の愛人契約を結んでいる女・加代と関係をもってしまったのだが……。

◎「アメンボ」
上川光一、32歳。売れない映像カメラマンだ。ある日、水難事故でおぼれかけた女を助けようとして負傷、不能になってしまう。事故の原因となった女・安美は責任を感じ、光一に尽くすのだが……。

◎「ボートハウス」
小西のぼるは15歳。退屈な夏休み、堀端のボートハウスでアルバイトをしている。バイト先には美佐子という気怠い空気をまとった年上の女がいた……。

◎「冬の客」
締め切りが迫った仕事を片付けるため、北海道石狩湾のとある海岸近くのペンションを借りた翻訳家。そこに、訳あり風の姉妹がやってきて……。

 
◆漫画「陽だまり」より抜粋

◆漫画「アメンボ」より抜粋

◆漫画「ボートハウス」より抜粋

◆漫画「冬の客」より抜粋

 

エッセイ著者プロフィール

 
■村上春樹(むらかみ・はるき)さん

1949年生まれ、京都府出身。作家、翻訳家。

安西水丸さんとの関係は、春樹さんが東京千駄ヶ谷で経営していたジャズ喫茶「ピーター・キャット」に、近所に住む水丸さんが通い出したことから始まり、1983年には、春樹さんの最初の短編集『中国行きのスロウ・ボート』の表紙を水丸さんの絵が飾っている。その後、お二人は「文・村上春樹、絵・安西水丸」という形で、『村上朝日堂』を始め多くの共著を世に送り出し、その関係は、水丸さんが世を去るまで続いた。

『週刊朝日』2014年4月18日号「週刊村上朝日堂 特別編」に寄せた文章には「安西水丸さんはこの世界で、僕が心を許すことのできる数少ない人の一人だった」と書いている。

〈主な共著〉
『象工場のハッピーエンド』『村上朝日堂』『村上朝日堂の逆襲』『日出る国の工場』『ランゲルハンス島の午後』『村上朝日堂超短編小説 夜のくもざる』『村上朝日堂はいかにして鍛えられたか』(新潮文庫)、『村上朝日堂 夢のサーフシティー』(朝日新聞社)、『ふわふわ』(講談社文庫)、『うさぎおいしーフランス人』(文藝春秋)他。

 
■柴門ふみ(さいもん・ふみ)さん

1957年生まれ、徳島県出身。漫画家、エッセイスト。

お茶の水女子大学文教育学部哲学科卒業。在学中は漫画研究会に所属。弘兼憲史さんのアシスタントを経て、1979年、漫画家デビュー。1983年『P.S. 元気です、俊平』で第7回講談社漫画賞受賞。1992年には『家族の食卓』と『あすなろ白書』で第37回小学館漫画賞を受賞。

あらゆる世代の恋愛をテーマにして『女ともだち』『同・級・生』『東京ラブストーリー』『恋する母たち』(小学館)などの作品を発表し、その多くがテレビドラマ化されている。またエッセイ集として『恋愛論』(PHP文庫)、『ぶつぞう入門』(文春文庫)、『オトナのたしなみ』(角川文庫)などがある。現在、『ビッグコミックオリジナル』誌上で「薔薇村へようこそ」を連載中。

安西水丸さんとは、エッセイにある通り、お茶の水女子大在学中から交流があり、水丸さんのエッセイ集『青山の青空』(新潮文庫)では、巻末の特別対談に登場している。

 
■木内達朗(きうち・たつろう)さん

1966年生まれ、東京都出身。イラストレーター、絵本作家。

国際基督教大学教養学部生物科卒業後、渡米し、アートセンター・カレッジ・オブ・デザイン、イラストレーション科卒業。ボローニャ国際絵本原画展入賞、講談社出版文化賞さしえ賞ほか、受賞多数。

多くの雑誌挿絵のほか、池井戸潤さんの半沢直樹シリーズ、下町ロケットシリーズなど多数の書籍の装画を手がけている。イラストレーション青山塾講師。

安西水丸さんが、「東京イラストレーターズ・ソサエティ」の理事長を務めた時代の理事の1人であった。

著書に、絵本『いきもの特急カール』(岩崎書店)、漫画『チキュウズィン https://c.tatsurokiuchi.com/』などがあり、水丸さん同様、多才なイラストレーターである。

 
■角田光代(かくた・みつよ)さん

1967年生まれ、神奈川県出身。作家。

早稲田大学第一文学部卒業。1990年『幸福な遊戯』(角川文庫)で海燕新人文学賞、2003年『空中庭園』(文春文庫)で婦人公論文芸賞、2005年『対岸の彼女』(文春文庫)で直木賞、2006年『ロック母』(講談社文庫)で川端康成賞、2007年『八日目の蝉』(中公文庫)で中央公論文芸賞、2012年『紙の月』(ハルキ文庫)で柴田錬三郎賞、『かなたの子』(文春文庫)で泉鏡花文学賞、2014年『私のなかの彼女』(新潮文庫)で河合隼雄物語賞、2021年『源氏物語』(河出書房新社/全三巻)訳で読売文学賞を受賞。

安西水丸さんが部長を務めていた「カレー部」の部員として、都内各所の美味しいカレー屋さんで舌鼓を打ち、日本酒を痛飲して、愉快な時間を過ごしていた。

 
■平松洋子(ひらまつ・ようこ)さん

1958年生まれ、岡山県出身。作家、エッセイスト。

東京女子大学文理学部社会学科卒業。2006年『買えない味』(ちくま文庫)でBunkamura ドゥマゴ文学賞、2012年『野蛮な読書』(集英社文庫)で講談社エッセイ賞、2022年『父のビスコ』(小学館)で読売文学賞を受賞。

『食べる私』『肉とすっぽん 日本ソウルミート紀行』(文春文庫)、『ルポ 筋肉と脂肪 アスリートに訊け』(新潮社)など著書多数。

食を楽しみ、食を哲学する絶品エッセイ『ひさしぶりの海苔弁』『あじフライを有楽町で』では、安西水丸さんが挿絵を担当している。

 
■信濃八太郎(しなの・はったろう)さん

1974年生まれ、千葉県出身。イラストレーター。

日本大学芸術学部演劇学科舞台装置コース卒業。同大在学中より安西水丸さんに師事。パレットクラブスクール、朝日カルチャーセンター安西水丸塾、コムイラストレーターズ・スタジオ修了。

雑誌の挿絵、書籍の装画のほか、舞台美術やアニメーションも手がける。

エッセイにもある通り、大学在学中に安西水丸さんの薫陶を受けて、イラストレーターを志す。水丸さんの没後、WOWOWで放送されている映画番組「W座からの招待状」のナビゲーター役を引き継いでいる。また、「W座を訪ねて」では全国の単館系映画館を紹介。WOWOW noteにて「イラストレーター・信濃八太郎が行く【単館映画館、あちらこちら】」を連載中。

 

著者プロフィール

著者の安西水丸(あんざい・みずまる)さんは、1942(昭和17)年生まれ、東京都出身。重いぜんそくのため、三歳から中学卒業までは母の郷里、千葉県千倉町で育つ。日本大学芸術学部美術学科卒業。電通、ADAC(ニューヨーク)、平凡社を経て独立、フリーのイラストレーターとなる。朝日広告賞、毎日広告賞など、受賞多数。イラストレーターとしてだけではなく、広告、装幀、漫画、小説、エッセイ、絵本、翻訳など多方面で活躍した。

2014(平成26)年逝去。

 
「漫画家・安西水丸」のデビュー作は、伝説の漫画誌『ガロ』に嵐山光三郎さんの勧めによって描いた「怪人二十面相の墓」(原作」嵐山光三郎さん)である。水丸漫画には、この「怪人二十面相の墓」を含む最初の短編漫画集『青の時代』や『東京エレジー』『春はやて』などの繊細で叙情的な作品群と、『普通の人』などのオチがない、独特の可笑しさと怖さが同居する四コマ漫画集という、テイストがまったく異なる二つの系統がある。

 

 


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