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古書みつけ主催「第1回気がつけば○○ノンフィクション賞」受賞作『気がつけば生保レディで地獄みた。』が刊行

東京の下町で古本屋として営業中の古書みつけ(https://kosho-mitsuke.com/)は、古書販売だけでなく出版事業もスタートし、公募した第1回「気がつけば○○ノンフィクション賞」の受賞作『気がつけば生保レディで地獄みた。』(著:忍足みかんさん、装画・挿絵:なかむらるみさん)を全国書店および古書みつけ店頭にて発売中です。

 

第1回「気がつけば○○ノンフィクション賞」受賞作が書籍化!

『気がつけば生保レディで地獄みた。』は、東京都台東区柳橋という下町にある古本屋「古書みつけ」が企画した、第1回「気がつけば○○ノンフィクション賞」の受賞作です。最終審査は、漫画家の新井英樹さん(『宮本から君へ』)、脚本家の加藤正人さん(「凪待ち」)、著述家の本橋信宏さん『全裸監督』)と、すべて映像化された作品をもつ現役の作家さんたちによって実施されました。

 
スチュワーデスがキャビンアテンダントに、看護婦が看護師と呼ばれるようになって久しいですが、いまだに保険外交員は、「生保レディ」と呼ばれ続けています。

本作は、そんな生保業界に新卒で入社した著者が、“三年神話”を信じて働き続け、心を病み、自殺する寸前にまで追い込まれ、元同僚と共に告発にまで踏み切るという壮絶なノンフィクションです。

同調圧力社会やハラスメント社会に対する叫びだけでなく、LGBTQ+当事者でもある著者の“生きづらさ”が奇しくもLGBTQ+フレンドリー企業だった生命保険会社で浮き彫りになっていく過程も描かれ、単純な“職業体験舞台裏”ものとは一線を画す作品に仕上がっています。

 
「離職率9割業界」「自殺って死亡保険金でたっけ?」「今月の給料9000円!?」「AVとかでよくあるじゃん」「枕営業やってるの?」「お願い告発に協力して」…圧力強めのパワーワードが次々と飛び出す一冊です。

 
【あらすじ】

就活に疲れ果てた若者がたどり着いたのは保険の世界。
洗練された大人な女性保険外交員に憧れ、いざ、飛び込んでみると、あまりにも過酷な現実が待ち受けていた……!?

おそるべきノルマの実態、宗教グループよろしくな狂気の決起集会
女性社会特有のセクハラ発言に男性上司からの高圧パワハラ
日々病んでいく先輩や同僚、気になる枕営業の真相にLGBT問題
契約取れずに友人に営業をかけてグループLINEから強制退室
テレビ局にブラック企業っぷりを訴え取材をしてもらうも報道自体がお蔵入り
えぇ! 今月の給料9千円!?

結婚、出産、マイホームに親の介護……ルーティンで伝える「生涯設計」に、パンセクシャルな主人公はモヤモヤな気持ちを抱いたままに営業を続ける。徐々に擦り減っていく精神、追い込まれ病んでいく主人公は、現実からの逃避を自殺に求めてしまう。

「自殺って死亡保険金でたっけ?」

駅のホームから飛び降りる直前、職業病が彼女を救うも、ノルマから解放されることはなく……。

生命保険ってオイシイの? 生涯設計、ゾッとするわ!

 
<最終審査員からのコメント>

◎新井英樹さん(漫画家)
実話、でも小説のよう。描き込まれた体温が現実をやさしく包む!

◎加藤正人さん(脚本家)
保険業界の過酷なノルマに追われる主人公の苦しさを、奇妙なユーモアとペーソスで描いた秀作。面白い!

◎本橋信宏さん(著述家)
職業の舞台裏を本人が綴った読み物が多々あるなかで、本書の存在感は際立っている。

 

 

著者プロフィール

忍足みかん(おしだり・みかん)さんは、1994年生まれ、東京都出身。中学校から大学まで女子校。2017年から約2年半、都内にある大手生命保険会社に勤務。

2019年『#スマホの奴隷をやめたくて』(文芸社)でデビュー。以降、テレビや新聞などのメディアに多数取り上げられる。LGBTQ+(パンセクシャル)の当事者であることから、“多様性”に重きを置き、活動中。趣味はプロレス観戦と「3年B組金八先生」を観ること。

6月いっぱいまでは週一店主をつとめます

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「気がつけば○○ノンフィクション賞」について

2021年10月、東京都台東区柳橋にて、約20年にわたって書籍や雑誌をつくってきたふたりの編集者が「古書みつけ 浅草橋」をオープン。2022年4月、「古書みつけノンフィクション賞」を創設、「気がつけば○○」というお題のもと、自身の体験を綴るノンフィクションの公募を開始する。

2022年12月、受賞作となった「気がつけば生保レディになっていた。」を出版するために、古書店を出版社化。引き続き、「気がつけば○○」シリーズを刊行予定。

 

 

気がつけば生保レディで地獄みた。 (気がつけばシリーズ)
忍足みかん (原著)

無名の出版社、無名の文学賞、無名の作家
三冠無名のノンフィクションシリーズが創刊!

●生保業界の生々しさが伝わる本文抜粋●
「自殺……って、死亡保険金出たっけ?」
よくドラマのワンシーンで、不況のあおりをうけた中小企業の社長が、
「俺の死亡保険金で会社を救ってくれ」なんて
遺書を残して首を吊ったりするけれど……
現実、自殺じゃ、保険金が出なかったりする。

しかし、独身の一人暮らしの男性の家に行くときは、やはり少し身構える。すべてがすべてヤバい人ではないけれど、以前、50代独身のゴミ屋敷に住む一人暮らしの男性に、
「ねぇ、枕営業ってあるの」と聞かれたときには、鳥肌が立ったし、怖かった。

だってロープレに出てくる人生は、結婚して、子どもを産むが大前提で話が進むんだもん。独身の人相手っていうシチュエーションでやるときも、将来結婚して子どもが……が当然のようについてくるもんだから。モヤッとする。
それはロープレだけじゃない。
ロープレと同じくらい繰り返しやるのが、「生涯設計」だ。これはハピノートに生年月日、性別を入力するだけで、あら不思議、平均的な自分の将来設計とその人生にかかるお金が表示される。自分の年齢と性別「23歳、女性」を入力して画面上の「結果をみる」を指の腹でぐっと押してみれば……。
28歳- 結婚
30歳- 第一子出産
33歳- 第二子出産
37歳- 住宅ローンを組みマイホーム購入
子どもが成長し、下の子どもも無事大学を卒業すると、だいたい50半ばで親の介護が始まり、親を見送ると旦那と余暇を過ごし、ゆくゆくは老人ホームに入る。そんないわゆる〝フツウ〟の、自分の意思に反して表示される人生にゾッとする。

「今月、給与9000円だわ」
給料日前、オフィス長から手渡される給与明細を受け取ったルミさんが、溜息交じりにそう言って私は思わず「え?」と聞き返した。
「先月契約1件もとれなかったから……ほら」
見せられた給与明細には、確かに9000円の文字。0が一つ少なくない? いやでも、たとえ0がもう一つあったとしても、正社員の1か月の給与にしては少ない。

とはいえ、「看護婦」が「看護師」に、「スチュワーデス」が「キャビンアテンダント」に、性別による呼称の呪縛が解かれつつあるのに、いまだに「生保レディ」と呼ばれる私たち。(中略)「生保レディ」なんて呼ばれ方をしている限り、私たちはいつまでたっても性別のフィルターを外した一人の人間として見てもらえないかもしれない。

 


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