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人類とエボラの死闘を描く「第20回開高健ノンフィクション賞」最終候補作『生命の旅、シエラレオネ』が刊行

「第20回開高健ノンフィクション賞」最終候補作を書籍化した、加藤寛幸さん著『生命(いのち)の旅、シエラレオネ』がホーム社より刊行されました。

 

人類とエボラの死闘、こどもたちは――。

本書は、エボラ出血熱の過酷な治療現場で、こどもたちの治療に向き合った「国境なき医師団」の小児科医による渾身のノンフィクションです。

 
2014年、西アフリカにあるシエラレオネ共和国。死亡率の高さから「殺人ウイルス」と恐れられるエボラ出血熱の治療センターに、「国境なき医師団」の小児科医として著者は派遣されます。あっという間に生命が奪われていくそこで見たのは、家族をなくしながらも必死で耐えて明るさを失わず、他のこどもの世話を買って出るこどもたちでした。

前任地の南スーダンでの活動によるPTSDに苦しみ、生きる意味を見いだせなくなっていた著者は、彼らによって次第に再生へと導かれて行きます――。

 
《僕はショックと後悔で言葉を失った。ここでは、「またあとで」や「また明日」は許されないのだ。エボラは決して待たず、あっという間に患者の命を奪っていく。
(中略)
患者さんたちにも、僕たちスタッフにも無駄にできる時間などない。1秒1秒が勝負なのだ。》
(本文より)

 
生命とは何か、利他とは何かを問う感動のノンフィクション作品です。

何時間もかけて患者を運んできた救急車。すでに亡くなっている患者がいたり、無症状なのに親と一緒に乗せられてくるこどももいる。(C)Hiroyuki Kato/MSF

何時間もかけて患者を運んできた救急車。すでに亡くなっている患者がいたり、無症状なのに親と一緒に乗せられてくるこどももいる。(C)Hiroyuki Kato/MSF

 
【さだまさしさん推薦!】

壮絶な「命の現場」を読む、未体験の感動。そして私たちの未来を切実に想い、願う。
――さだまさし

 

開高健ノンフィクション賞 選評より

◆姜尚中さん
何よりも新鮮なのは、エボラ治療センターで繰り広げられる生と死の鬩(せめ)ぎ合いの生々しい臨場感、そしてそこに示される健気な子供たちの生命の輝きの描写である。

◆田中優子さん
「国境なき医師団」の医師たちがどのような活動をしているのか、極めて具体的に知ることができる貴重な記録である。

◆藤沢周さん
コロナ禍やロシアによるウクライナ侵攻等、様々な人命危機の時代において「利他」の精神の重要性を提示し、人であることの一筋の光明をも覗かせてくれたルポでもある。自国第一主義、利益、利己にまみれた社会や時代の現実から目を背かせる詐術として政治があることをも浮かび上がらせた佳作。

(以上、季刊誌『kotoba』2022年秋号より)

 

著者プロフィール

著者の加藤寛幸(かとう ・ひろゆき)さんは、小児科医。人道援助活動家。

1965年生まれ、東京都出身。北海道大学中退、島根医科大学(現・島根大学医学部)卒業。シドニー・ウエストメッドこども病院、静岡県立こども病院などで小児救急、小児集中治療に従事。タイ・マヒドン大学にて熱帯医学ディプロマ取得。2003年より国境なき医師団の活動に参加し、アフリカやアジアの他、国内の災害支援にも従事。2015年~2020年、国境なき医師団日本会長。2022年、ウクライナでの活動に参加。

 

生命の旅、シエラレオネ
加藤 寛幸 (著)

ひとつでも多くの生命を救いたい。
国境なき医師団の小児科医のエボラとの壮絶な戦いや葛藤、かわいい患者のこどもたちの姿を通し、生命とは何か、利他とは何かを問う感動のノンフィクション。
凄惨なエボラの現場で、生きる意味を見失っていた医師は再生へと導かれていった――。

2014年、西アフリカのシエラレオネ。人類と、致死率60%とも90%とも言われるエボラとの戦いは想像を絶していた。人員も設備も不足した現場では、誰に看取られることもなく、多くの命が失われていく。
著者はこの数カ月前、南スーダンで活動していた。溢れかえるマラリア患者、病室の床まで埋め尽くす新生児破傷風患者などが、バタバタと命を落としていく。その現状に圧倒され、無力感と敗北感に囚われ帰国。帰国後は、PTSDに苦しみ、生きる意味を見失い、仕事や家族など多くの大切にしてきたものをも手放した。
そんななかで参加したエボラの活動。
40度近い気温のなか、防護服と二重の手袋、ゴーグルを着けて何リットルもの汗をかきながら治療にあたったが、できることは限られている。ここでも医師としての無力感に苛まれ、国際社会への疑念も生じた。だが家族をなくしながらも必死にエボラに立ち向かい、他のこどもの看病をするこどもたちとの関わりを通して、著者の生きることへの疑問は次第に薄れていく。
しかし、そんな著者を待ち受けていたのは意外な結末だった。

世界が新型コロナや戦争に揺れるなか、私たちは、自国や自分の利益を離れて行動することができるのだろうか。危機的な状況に置かれた今だからこそ、伝えたい。

第20回開高健ノンフィクション賞最終候補作。

 


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