短篇小説賞「川端康成文学賞」が川端康成の没後50年を前に復活!
川端康成記念会と新潮社は、2019年から休止していた川端康成文学賞を今年から再開すると発表しました。
日本人初のノーベル文学賞受賞者である川端康成(1899~1972)の没後、その賞金を基金にして生まれた川端康成文学賞(主催:川端康成記念会、後援:新潮社)は、短篇小説を対象とする賞としては日本で最も権威のある小説賞として50年近く営まれてきました。
過去の受賞者にはノーベル文学賞作家・大江健三郎さんや古井由吉さん、安岡章太郎さん、筒井康隆さんから山田詠美さん、江國香織さん、町田康さんまで日本を代表する作家が選ばれてきましたが、2019年に惜しまれつつ一時休止となりました。しかし、川端康成没後50年を来年に控えた今春、復活を果たします。
今年2021年は4月12日(月)に最終選考会が開催され、翌13日(火)に受賞作品を発表します。
川端康成文学賞について
川端康成の没後、財団法人川端康成記念会(現在、公益財団法人)が設立され、初代理事長に井上靖さんが就任しました。
川端康成文学賞は1973年1月に発足、その主要な使命は川端康成の功績を記念し、優秀な文学作品を顕彰することでした。川端康成には「掌(てのひら)の小説」という短編小説の名品が数多くあることから、審査対象は短編小説に限り、その年度の最も完成度の高い作品を授賞対象としました。
川端康成文学賞は丁寧かつ厳密な選考を重ねることで知られてきました。毎回、川端康成記念会が組織する予備選考委員が入念な下読みをおこない、選考委員による本選考は一次選考会と最終選考会の2回にわたり実施してきました。
なお、新潮社は長年にわたり川端康成の主要作品を刊行し、また『川端康成全集』を出版するなど、作家と深い関係にありました。そして、川端康成文学賞の創設準備期よりさまざまな形で協力し、後援を続けてきました。
<賞の一時休止について>
長らく川端康成記念会の理事長として川端康成文学賞を牽引してきた川端香男里理さん(故人)が、体調不良により選考委員長を続けることが困難になりました。また、記念会の事業基金の目減りにより、継続的な賞の運営が危ぶまれるようになりました。それらの結果、川端康成記念会の判断として、第45回川端康成文学賞(2019年春の選考会)は休止となりました。
川端康成文学賞の再開について
川端康成記念会と新潮社および新潮文芸振興会は、困難を乗り越え、川端康成文学賞を再開することに向けて、賞の意義の確認や運営費削減などについての協議を継続的におこなってきました。
そして、2020年3月19日の川端康成記念会の定例理事会において、新潮文芸振興会による追加的な支援や、選考委員の継続、賞の運営方法の改変などとともに、川端康成文学賞の再開が承認され、第45回となる2021年春の選考会から川端康成文学賞の選考を再開することになりました。
再開後の川端康成文学賞の運営について、改変されるのは以下の4点です。
1.これまで川端香男里理事長が組織していた予備選考委員(3名)による候補作選定を、新潮社による選定に改めます。
2.これまで福田家(『伊豆の踊子』の宿)でおこなっていた本選考会(2回制)を、新潮社内にて行ないます(2回制はそのままです)。
3.本選考会の1次選考は3月上旬、最終選考は4月中旬(今年度は4月12日)というスケジュール、対象時期(2020年に発表された作品)、賞金等に変更はありません。なお、本選考会は「新潮」編集長が議事進行をします。
4.受賞結果の発表は、これまで選考会当日に福田家でおこなっていた記者会見形式をとりやめ、選考会翌日にメール等にておこなうことにします。
<参考> 「川端康成文学賞」過去の受賞作品および今回の選考委員 〔敬称略〕
【川端康成文学賞 過去の受賞作品】
第1回(1974年)上林暁「ブロンズの首」
第2回(1975年)永井龍男「秋」
第3回(1976年)佐多稲子「時に佇つ(十一)」
第4回(1977年)水上勉「寺泊」 富岡多恵子「立切れ」
第5回(1978年)和田芳恵「雪女」
第6回(1979年)開高健「玉、砕ける」
第7回(1980年)野口冨士男「なぎの葉」
第8回(1981年)竹西寛子「兵隊宿」
第9回(1982年)色川武大「百」
第10回(1983年)島尾敏雄「湾内の入江で」 津島佑子「黙市」
第11回(1984年)林京子「三界の家」 大江健三郎「河馬に噛まれる」
第12回(1985年)高橋たか子「恋う」 田久保英夫「辻火」
第13回(1986年)小川国夫「逸民」
第14回(1987年)古井由吉「中山坂」 阪田寛夫「海道東征」
第15回(1988年)上田三四二「祝婚」 丸谷才一「樹影譚」
第16回(1989年)大庭みな子「海にゆらぐ糸」 筒井康隆「ヨッパ谷への降下」
第17回(1990年)三浦哲郎「じねんじょ」
第18回(1991年)安岡章太郎「伯父の墓地」
第19回(1992年)吉田知子「お供え」
第20回(1993年)司修「犬(影について・その一)」
第21回(1994年)古山高麗雄「セミの追憶」
第22回(1995年)三浦哲郎「みのむし」
第23回(1996年)大庭みな子「赤い満月」
第24回(1997年)坂上弘「台所」
第25回(1998年)村田喜代子「望潮」
第26回(2000年)岩阪恵子「雨のち雨?」 目取真俊「魂込め(まぶいぐみ)」
第27回(2001年)車谷長吉「武蔵丸」
第28回(2002年)河野多惠子「半所有者」 町田康「権現の踊り子」
第29回(2003年)堀江敏幸「スタンス・ドット」 青山光二「吾妹子哀し」
第30回(2004年)絲山秋子「袋小路の男」
第31回(2005年)辻原登「枯葉の中の青い炎」
第32回(2006年)角田光代「ロック母」
第33回(2007年)小池昌代「タタド」
第34回(2008年)稲葉真弓「海松(ミル)」 田中慎弥「蛹」
第35回(2009年)青山七恵「かけら」
第36回(2010年)高樹のぶ子「トモスイ」
第37回(2011年)津村節子「異郷」
第38回(2012年)江國香織「犬とハモニカ」
第39回(2013年)津村記久子「給水塔と亀」
第40回(2014年)戌井昭人「すっぽん心中」
第41回(2015年)大城立裕「レールの向こう」
第42回(2016年)山田詠美「生鮮てるてる坊主」
第43回(2017年)円城塔「文字渦」
第44回(2018年)保坂和志「こことよそ」
【第45回(2021年)川端康成文学賞 選考委員】
荒川洋治、角田光代、辻原登、堀江敏幸、村田喜代子(五十音順)
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