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『あの戦争から遠く離れて』城戸久枝さんが、子の世代へとあの戦争を伝える初の児童書『じいじが迷子になっちゃった』を刊行

『じいじが迷子になっちゃった あなたへと続く家族と戦争の物語』(著:城戸久枝さん/絵:羽尻利門さん)

『じいじが迷子になっちゃった あなたへと続く家族と戦争の物語』(著:城戸久枝さん/絵:羽尻利門さん)

偕成社は、数々の賞を受賞したノンフィクション作品『あの戦争から遠く離れて』(2007年/情報センター出版局/現在は新潮文庫刊)の著者・城戸久枝さんによる『じいじが迷子になっちゃった あなたへと続く家族と戦争の物語』(絵:羽尻利門さん)を刊行しました。『あの戦争から遠く離れて』の物語を、さらに子の世代へと伝える作品です。

 

「中国残留孤児」という言葉が生まれる前に、自力で日本の家族を探し、中国からの帰国を果たした城戸幹さんの半生を描いた『あの戦争から遠く離れて』の児童書版

著者の父・城戸幹(きど・かん)さんは、敗戦後の混乱期、3歳のときに家族とはぐれ、中国にたったひとりで残された、中国残留孤児の一人です。

 
中国人の優しい養母に引き取られ、「孫玉福(スンユイフー)」として大切に育てられた幹さんでしたが、成長するにつれ「日本人」であることの障壁を度々感じるようになります。

同時に自身が「日本人である」という自意識、祖国への思いが日に日に強くなり、ついに25年後に自力で日本への帰国を果たします。出来うる限りの日本人としての自身の情報を収集し、日本赤十字社に300通を越える手紙を書いた結果、家族がみつかったのです。中国残留孤児の、初めての帰国でした。

それは、日中国交正常化前にして、文化大革命のまっただ中である1970年のこと。「中国残留孤児」という言葉もまだなく、政府の支援もなかった時代の、幾多の困難を乗り越えての帰国でした。

 
著者は、ときに命の危険にさらされながらも祖国への帰国を果たした父の激動の半生を『あの戦争から遠く離れて』にまとめ、大宅壮一ノンフィクション賞、講談社ノンフィクション賞ほか多数の賞を受賞しました。

本書はその児童書版ともいえる、現代の子どもたちにむけて書き下ろされた作品です。

 

家族の歩んだ歴史についてふりかえるきっかけとなる作品

本書は、著者が、当時5歳だった息子に「じいじが迷子になっちゃったお話、聞かせて」とせがまれて、読み聞かせをはじめたことがきっかけとなり、現在、小学3年生になった息子に、改めて父親の半生を語り継ぐという形式で描かれています。本書にでてくるやりとりは、すべて、実体験をもとに描かれています。

 
自分が生まれる前の話だから関係ない、「戦争があった」という事実さえ知っていたら良い、と思うかもしれませんが、著者は史実だけではなく、「家族の物語」として語りつぐことの大切さをエピローグに書いています。

 
著者自身も戦争を知らない世代ですが、その父親は戦争によって人生を翻弄された一人です。そして、著者のみならず、日本人の誰しもが家族の歴史を遡れば必ず戦争の時代にたどりつきます。

そこにある物語は皆一人一人全く異なります。読者は自分自身の家族の歴史を知ることで、「長くつながる物語の一部に、あの戦争があった」ということに気づくはずです。

家族で、家族の歩んだ歴史について、そして、あの戦争について、考えてみるきっかけを提供する作品でもあります。

 

著者プロフィール

■著:城戸久枝(きど・ひさえ)さん

1976年、愛媛県松山市生まれ、伊予市育ち。徳島大学総合科学部卒業。出版社勤務を経てノンフィクションライターに。

『あの戦争から遠く離れて── 私につながる歴史をたどる旅』(2007年/情報センター出版局/現在は新潮文庫刊)で大宅壮一ノンフィクション賞、講談社ノンフィクション賞ほか受賞。

その他の著書に『祖国の選択──あの戦争の果て、日本と中国の狭間で』(新潮文庫)などがある。一児の母で、戦争の記憶を次の世代に語りつぐことをライフワークとしている。

★URL:http://saitasae.jugem.jp/

 
■絵:羽尻利門(はじり・としかど)さん

1980年、兵庫県生まれ、京都府育ち。立命館大学国際関係学部卒業。在学中に香港中文大学へ留学。貿易会社勤務ののちイラストレーターに。

2006年、第7回インターナショナル・イラストレーション・コンペティションで優秀賞受賞。絵本に『夏がきた』(あすなろ書房)、さし絵作品に『坂の上の図書館』(さ・え・ら書房)、『天国にとどけ! ホームラン』(小学館)など多数。

 

じいじが迷子になっちゃった: あなたへと続く家族と戦争の物語
羽尻 利門 城戸 久枝 (著)

中国残留孤児の父・城戸幹の半生をつづった名作『あの戦争から遠く離れて』の著者が母となり、子へと家族の歴史を語りつぐ――。

著者の父・城戸幹(きど・かん)は、敗戦後の混乱期、3歳で旧満州にひとり残された中国残留孤児。幹は優しい養母に大切に育てられながらも、やがて祖国への思いを強くし、文化大革命の真っ只中、日中国交正常化前の1970年に自力で日本への帰国を果たします。

本書は、その父の激動に満ちた半生をつづり、多くの賞に輝いた『あの戦争から遠く離れて』(2007年/情報センター出版局/現在は新潮文庫刊)を、あらたに子ども向けに書いた作品。

城戸家にとどまらず、日本人の誰しもが家族の歴史を遡れば必ず戦争の時代にたどりつきます。家族の物語を通して、若い世代へ、戦争とのかかわりを考えるきっかけを与える1冊。

 


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