霞が関の最高幹部たちが考える有事の国家運営とは? 『国家の総力』が刊行
兼原信克さん・高見澤将林さん編『国家の総力』が新潮新書より刊行されました。
著者のお二人は共に内閣官房副長官補、国家安全保障局次長として、安倍内閣の外交・防衛政策を支えてきた元官僚です(兼原さんは外務省、高見澤さんは防衛省の出身)。
本書では、台湾有事の可能性を踏まえて、「軍事面以外の」国家運営の課題を、近年まで日本政府に奉職していた高官たちと共に議論しています。
負けない体制を構築せよ!
台湾有事の現実性が高まり続けている近年、有事に際しての軍事的な課題に対する意識はだいぶ高まってきた印象があります。新潮新書でも、今回の本の編著者である兼原信克さんが主導する形で『自衛隊最高幹部が語る令和の国防』『自衛隊最高幹部が語る台湾有事』『核兵器について、本音で話そう』といった、純軍事的な側面にフォーカスした本を作り、いずれもよく売れています。
ただし、有事の課題は軍事面に留まらないことはもちろんです。日本は貿易で成り立っている国であり、食料もエネルギーも輸入に頼っています。日本経済を回していくには、毎日20万トンタンカー2、3隻分のエネルギーが必要です。しかし、南シナ海が戦場になれば日本はシーレーンを断たれ、物流は大幅な迂回を余儀なくされます。ですから、そもそも戦闘を「起こさせない」ためにも、シーレーン防衛に手抜かりがあってはなりません。
また、台湾有事となれば、米軍が拠点として使用するのは前線となる日本の米軍基地になりますが、ミサイル攻撃によって米軍基地が機能不全になれば、自衛隊の基地は言うに及ばず、日本の港湾や空港に米軍の飛行機や艦船が入ってくる事態も考えられます。そうした際の法的整備、事前準備も必要です。日本の通信を保障する海底ケーブルの保全や、サイバーセキュリティ対策は言うまでもありません。
加えて言えば、有事になったとしても、経済活動は続きます。世界第二位の経済大国が「戦争」を仕掛けてきた時、果たしてどのような影響があるのか。日本の対中依存度は、レアアースで68%、携帯電話で83%(iPhoneは中国で組み立てている)、パソコンでは99%にもなります。中国との間で複雑に組み上げられたサプライチェーンが止まってしまったら、果たして日本経済が持つのか。
上記は問題の一部に過ぎませんが、「有事の国家運営」という課題が公の場(例えば国会)で論じられるようなことは、日本では皆無です。本書では、近年まで日本政府に奉職していた霞が関の最高幹部クラスの方々(各省の次官、審議官、局長、海上幕僚長、海保長官など)が集まり、現役の際には語れなかった本音ベースの議論を展開しています。
<本書に登場された方たち> ※敬称略
第1章 エネルギー安保と食料安保 豊田正和(経産審議官)、末松広行(農水事務次官)
第2章 シーレーン防衛 村川豊(海上幕僚長)、岩並秀一(海上保安庁長官)
第3章 特定公共施設と通信 武藤浩(国土交通事務次官)、谷脇康彦(総務審議官)
第4章 貿易と金融 高田修三(経産省製造産業局長)、門間大吉(財務省国際局長)
※編著者である兼原信克(内閣官房副長官補、国家安全保障局次長)、高見澤将林(同)の両氏は、ホスト役として全討議に参加しています。
【書籍内容】
国家の総力をあげて、中国を食い止めよ!
台湾有事が現実的な懸念となった近年、安全保障面での議論はなされるようになってきた。しかし、国家間の戦いがグレーゾーンから始まる現在、日頃から有事を想定しておかなければ現実の戦闘には対応出来ない。エネルギーと食料安保、シーレーン防衛、公共施設と通信、そして経済・金融への影響などの観点から、有事における日本の問題を考える。
編者プロフィール
■兼原信克(かねはら・のぶかつ)さん
1959年生まれ。同志社大学特別客員教授、笹川平和財団常務理事。元内閣官房副長官補、国家安全保障局次長。著書に『歴史の教訓』など。
■高見澤将林(たかみざわ・のぶしげ)さん
1955年生まれ。東京大学公共政策大学院客員教授。元内閣官房副長官補、国家安全保障局次長、ジュネーブ軍縮会議日本政府代表部大使。
![]() | 国家の総力 (新潮新書) 兼原 信克 (編集), 髙見澤 將林 (編集) |
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