仁志耕一郎さん〈歌舞伎役者の”とんでもない人生”〉の物語『花と茨 七代目市川團十郎』が刊行
『咲かせて三升の團十郎』を改題して文庫化した、仁志耕一郎さん著『花と茨 七代目市川團十郎』が新潮文庫より刊行されました。
どこまでも粋に、泥まみれでも花道を――。
江戸時代から歌舞伎の屋台骨を支えてきた名門の一つ、市川宗家。現・市川團十郎は13代目で、過去にも名優といわれた役者を多く輩出しました。その一人が、本書の主人公である七代目市川團十郎です。
七代目は歌舞伎の歴史に名を刻んだ名役者でした。しかしプライベートはまるでジェットコースターのよう。悪女、スキャンダル、都落ち、また悪女、息子の死……。波瀾万丈の人生は小説でしか描けない、としか言いようがないのです。
「十八番」という言葉は、自分の得意な芸を意味しますが、もともとは「歌舞伎十八番」から来ていると言われています。そのなかには「助六」「勧進帳」「暫」といったよく知られた演目も含まれているのですが、この十八番こそ本書の主人公七代目團十郎が、制定したものでした。
というと歌舞伎界に尽力した真面目な役者を想像してしまいますが、全く逆。歌舞伎史上まれにみるほど破天荒で、絶頂と奈落を生きた役者でした。天才肌で色気もあって、江戸に團十郎ありと名を上げた若き團十郎。一方で、その豪奢で派手な生活を続け、お上に対しても反骨心剥き出し。結果、目をつけられて財産没収、江戸追放の憂き目に。
妻子とも別れ、文字通り江戸にいられなくなった團十郎。頂点から泥の底とはこのこと。ところが芸の力は凄く、やがて上方で名を上げます。まさに「復活伝説」。ところが、悪女に狙われ、金をむしられ、真面目な息子が巻き込まれます。華やかな歌舞伎世界の裏にある生々しい欲望が、絶頂と奈落のループから浮かび上がってくるのです。
若い頃から、「本物の團十郎」とは何かを追求し、江戸歌舞伎を背負う責任を感じてきた七代目團十郎。その人生で、七代目は何を掴み、何を手放さなかったのか。号泣するほどの後悔と落ちぶれた晩年でも、彼の役者魂は生き続けたのでしょうか。最後の舞台を待ち望んでいたのは、他ならぬ江戸っ子たちでした。
【あらすじ】
〈七代目〉ほど破天荒な人生を送った役者がいただろうか――。天才肌で色男、江戸に團十郎ありと名を上げて「歌舞伎十八番」を制定する一方、その豪奢な生活を御上に睨まれ財産没収、江戸追放に。やがて奈落の底から見事復活をとげるが、思いもよらない悲劇が襲った……。
大名跡の重責を背負い、たとえ茨の道でも、最後まで粋を貫いた名優を初めて描く感動作。『咲かせて三升の團十郎』改題。
<本文より>
十歳で七代目を襲名してから、ずっと「本物の〈市川團十郎〉になれ」と言われ続けてきた。確かな手本もない中、自ら 試行錯誤を重ねてきた。時には重鎮の親方衆に教えを乞い、常磐津節の師匠の許で声の出し方を学び、一歩でも〈市川團十郎〉に近づこうと稽古・精進に励んできたのはすべて、―――そう、本物の〈市川團十郎〉になりたい――。その一心だった。
著者プロフィール
仁志耕一郎(にし・こういちろう)さんは、1955(昭和30)年生まれ、富山県出身。東京造形大学を卒業後、広告会社に勤務。2012(平成24)年『玉兎の望』で小説現代長編新人賞、『無名の虎』で朝日時代小説大賞を受賞し、作家デビュー。2013年、同2作で歴史時代作家クラブ賞新人賞を受賞。
著書に『玉繭の道』『とんぼさま』『松姫はゆく』『家康の遺言』『按針』の他、渾身作『咲かせて三升の團十郎』がある。東京・深川で長く暮らす。2023年7月現在、山梨県在住。
![]() | 花と茨:七代目市川團十郎 (新潮文庫) 仁志 耕一郎 (著) |
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