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小学校に通えず、読み書きができないまま社会に出て、還暦を過ぎて夜間中学で学んだ――最愛の妻にラブレターを書くために…ノンフィクション『35年目のラブレター』が刊行

来春の全国劇場公開も決定、小倉孝保さんによるノンフィクション作品『35年目のラブレター』が講談社より刊行されました。

 

『35年目のラブレター』という実話が持つ重み

 
《貧しさ故にうそつき呼ばわりされていじめられ、低学年で小学校に通うのをやめた。読み書きができないまま社会に出て、つらい思いをした。でも、自分を苦しめてきた読み書きを覚えようと64歳で夜間中学に通い始めた。長年連れ添ってくれた妻にラブレターを書くために――。》

西畑保さん(右)は、妻の皎子(きょうこ)さんに感謝を伝えるためにラブレターを書く決意をした。

西畑保さん(右)は、妻の皎子(きょうこ)さんに感謝を伝えるためにラブレターを書く決意をした。

 
今年(2024年)、米寿を迎えた西畑保さんは、奈良県に住んでいます。

和歌山県の山間で生まれ育った西畑さんは、小学2年生の途中から学校に通っていません。山間で高値で売れる木の皮を集めて貯めたお金だったのに、小学校で落とした財布は自分のものだと名乗り出たらうそつき扱いされたのです。貧しい暮らしの西畑さんが、そんなお金を持っているはずがないと、クラスメートも教師も彼を責め、いじめました。その一件があってから、西畑さんは学校に行くのをやめてしまいました。

 
中学校に通う年齢になって働きに出た西畑さんですが、その人生につきまとったのは「読み書きができないこと」でした。

勤めた飲食店では、電話で受けた注文の内容をメモに記すことができず、職場の先輩からは「字も読めないやつ」と差別的な扱いをされました。

劣等感を抱き、結婚なんて夢のまた夢とあきらめていた西畑さんのもとに、お見合いの話が舞い込みます。読み書きができないことを隠して結婚した西畑さんでしたが、町内の回覧板にサインができず、妻の皎子(きょうこ)さんの知るところとなります。その事実を知った皎子さんは、西畑さんにこう声をかけました。

「ずっと、つらい思いをしてきたんやろな」

子どもも生まれ、孫も生まれ、還暦を過ぎた西畑さんの日常に、ある変化が訪れます。64歳になって、夜間中学に通うことに決めたのです。それは、読み書きのできない自分に長年連れ添ってくれた妻に、感謝の気持ちを伝えるラブレターを書くためでした――。

 

「学ぶのに遅すぎるということはない」

「明るく、前向きに生きる」「自分の人生を他人や環境のせいにしない」、そして「学ぶのに遅すぎるということはない」――。

 
西畑さんの人生からは、さまざまなメッセージを受け取ることができます。新聞、雑誌、テレビなどメディアでも取り上げられた西畑さんに、毎日新聞論説委員である小倉孝保さんが寄り添い、これまで西畑さんが見てきた風景、抱えてきた思いを一冊の書籍にまとめました。それが『35年目のラブレター』です。

西畑さんが妻に宛てたラブレター

西畑さんが妻に宛てたラブレター

 

西畑保さんの生き様が映画に! 2025年3月7日(金)全国劇場公開

この実話をもとにした映画の製作が決定しました。

主人公の西畑保役は落語家・タレントとして笑顔を届け続ける傍ら、「閉鎖病棟-それぞれの朝-」(2019年)、「しずかちゃんとパパ」(NHK)など俳優としても活躍を重ねる笑福亭鶴瓶さん、その妻・西畑皎子役には2022年にデビュー40周年を迎え、歌手活動とともに「星の子」(2020年)など話題作に出演し続ける原田知世さんを迎えます。監督・脚本は、「今日も嫌がらせ弁当」(2019年)、「舟を編む ~わたし、辞書つくります~」(NHK)などユーモアに富んだヒューマンドラマを手掛ける塚本連平さんが務めます。

2025年3月7日(金)、全国劇場公開の予定です。

 
★映画「35年目のラブレター」公式サイト:https://35th-loveletter.com/

 

著者プロフィール

小倉孝保(おぐら・たかやす)さんは、ノンフィクション作家。滋賀県出身。1988年、毎日新聞社に入社。カイロ支局長、ニューヨーク支局長、欧州総局長、外信部長を経て論説委員。

『柔の恩人 女子柔道の母」ラスティ・カノコギが夢見た世界』(小学館)で小学館ノンフィクション大賞(2011年)、ミズノスポーツライター賞最優秀賞(2012年)をダブル受賞。2014年、乳がんの予防切除に道を開いた女性を追ったルポで日本人として初めて英外国特派員協会賞を受賞。

他の著書に『十六歳のモーツァルト 天才作曲家・加藤旭が遺したもの』(KADOKAWA)、『踊る菩薩 ストリッパー・一条さゆりとその時代』(講談社)などがある。

 

35年目のラブレター
小倉 孝保 (著)

貧しさ故に盗みを疑われ、小学2年生で学校に通うのをやめた。読み書きをおぼえようと64歳で夜間中学に通い始めた。それは、連れ添ってくれた妻にラブレターを書くためだった――。新聞、テレビでも紹介された感動の実話を書籍化。

西畑保さん、87歳(2023年現在)。和歌山県の山間で生まれ育った西畑さんは、小学2年生の途中から学校に通わなくなった。自らが落としたお金だったのに、自分のものだと名乗り出たのだが、うそだと言われ、泥棒扱いされた。教師もいじめを止めなかった。それもこれも、貧しさが理由だった。中学で働きに出たパン工場をはじめ、西畑さんの人生につきまとったのは、「読み書きができないこと」だった。働いた飲食店では、電話で受けた注文の内容をメモに記すことができなかった。素材を仕入れに卸問屋に行っても、買い物メモが読めなかった。読み書きができないことを隠して結婚したが、町内の回覧板にサインができず、妻の知るところとなる。それを知った皎子(きょうこ)さんは、西畑さんにこう声をかけた。「ずっと、つらい思いをしてきたんやろな」。それから三十年の月日が過ぎ、64歳になった西畑さんは、夜間中学に通うことに決めた。それは、連れ添ってくれた妻にラブレターを書くためだった――。

 
【関連】
映画『35年目のラブレター』公式サイト

 


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