津原泰水さん幻の長編小説『羅刹国通信』が初単行本化
『綺譚集』『ヒッキーヒッキーシェイク』『夢分けの船』などで知られる故・津原泰水さんの幻の傑作『羅刹国通信』が東京創元社より刊行されました。
虚無の地獄で繋がった少年と少女の魂の行方
本作は、実業之日本社の文芸誌「週刊小説」に2000年2月から2001年12月まで不定期に掲載された作品で、今回初めて単行本化されました。
高校生の理恵は、四年前、小学六年生の時に叔父を殺したことで罪の意識を抱えて生きています。叔父の死は自殺ということになっていましたが、理恵が家族に真実を打ち明けると、母は理恵のことを「鬼」と詰り責め立てました。
高校生になった理恵は電車のなかでひとりの少年と出会います。少年は理恵に向かって「人殺しのくせに自分が鬼だと気づいていない」と不可解なことを言い放ち、その後、理恵は自分の額に本当に角が生えていることに気づきました。灼熱の地獄を亡者の群れとともに彷徨する夢を眠るたびに見るようになり、やがて電車で出会ったあの少年が夢に現れます。二人はひとつの夢を共有しているのです。
少年は、羅刹国というこの世界では人々が「羅」と「刹」に分かれて争っていると理恵に教えますが――
他人からは見えない角を生やし、現実と羅刹国が地続きになってしまった少女の日々。岩陰から一歩出れば血が沸騰し、髪が焦げる灼熱の地獄の景色。その凄まじさと、読者を物語世界に引き込む力の強さに、ページから目が離せなくなります。
【あらすじ】
叔父を殺したことは固く秘しておくべきだった。
自殺するなんてと母が泣き続けるものだから、本当はわたしが崖から突き落としたのだとわかれば、すこしは気が楽になるかと思ったのだ。
震災で妻を失いPTSDに苦しむ叔父との同居に疲弊する家族のために、小学六年生の左右田理恵(そうだ・りえ)は叔父を殺した。
その四年後、理恵は奇妙な夢を見るようになる。
荒れ果てた灼熱の地で岩蔭と食糧を求める「鬼」の集団。
かれらは二つの勢力に分かたれ争い殺し合う――その法則を理恵に教えたのは、同じ夢を共有する一人の少年だった。
解説=春日武彦さん
エッセイ=北原尚彦さん
本書の目次
「羅刹国通信」
「続羅刹国報」
「続々羅刹国――雨の章――」
「続々羅刹国――夜の章――」
「解説」 春日武彦
「津原国通信」 北原尚彦
著者プロフィール
津原泰水(つはら・やすみ)さんは、1964年生まれ、広島県出身。青山学院大学卒業。1989年、津原やすみ名義で少女小説作家としてデビュー。1997年、現名義で発表した『妖都』以降、様々なジャンルを横断する作品を執筆している。
2012年『11 eleven』が第2回Twitter文学賞国内部門1位となる。2014年、短篇「五色の舟」がS-Fマガジン“オールタイム・ベストSF”国内短篇部門1位に選出される。近藤ようこさんにより漫画化された同作が、第18回文化庁メディア芸術祭マンガ部門大賞を受賞する。
〈ルピナス探偵団〉〈幽明志怪〉シリーズほか、『少年トレチア』『綺譚集』『ブラバン』『ヒッキーヒッキーシェイク』『夢分けの船』など著作多数。2022年逝去。翌2023年、第43回日本SF大賞功績賞を受賞した。
![]() | 羅刹国通信 津原 泰水 (著) 十二歳で叔父を殺した。 写真:野坂実生 |
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