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屈するか、逃げるか――朝井まかてさん『青姫』が刊行

数々の文学賞に輝く、歴史時代小説の名匠・朝井まかてさんの長篇小説『青姫』が徳間書店より刊行されました。

 

屈するか、逃げるか――農と自由と民の物語

 
【あらすじ】

われらを支配してよいのは
この天地のみ

武士と悶着を起こして村を出奔した若者・杜宇が迷い込んだのは、不思議な地。自由経済で成り立ち、誰の支配も受けない「青姫」の郷だった。

籤で選ばれた頭領・満姫のもと、生死を分つ選択さえも籤で決められる。それが天意だからだが、満姫はとんでもない気まま娘、口も意地も悪い。
杜宇は命拾いするも米作りを命じられ、田を墾くことから始めねばならなくなった。

生きるために「農」の芸を磨き、民にも馴染んでゆくが、郷には秘密の井戸がある。そしてある日、若い武士が現れた――

米を作れ! わらわは姫飯(ひめいい)が食べたい

これは歴史か、幻想(ファンタジー)か?

 
〈主な登場人物〉

●杜宇(とう)……流浪の末、青姫の郷に迷い込む。命拾いするも、米作りを命じられる。

●満姫(みつるひめ)……青姫の郷の頭領で、神事をつかさどる。小柄な丸顔だが、年齢不詳。

●朔(さく)……武の長。姫を護衛しつつ、仲違いも。異人のような風貌を持つ。

●分麻呂(わけまろ)……古くから姫に仕える薬師。あるミッションに人生を懸けている。

 

朝井まかてさん コメント

連載時はちょうどコロナ禍でした。むしょうに土に触れたくて、田植えの匂いや稲刈りの景色が慕わしく、それで主人公に米作りをさせることにしました。舞台は、「青姫の郷」という秘境です。とはいえすべてが幻想(ファンタジー)ではなく、まだ幕府の支配体制が固まっていない江戸時代初期の様相を背景にしています。

青姫の郷は中央政権の支配がまだ及んでいない、いわば自由都市。民による自治が行なわれ、ですが人々がなにより重んじるのは「天意」です。主人公の杜宇はその天意によって生かされ、といおうか振り回されるのです。郷の人々は姫をはじめ、クセが強い曲者揃い。どの人物も書くのが楽しく、今も愛着のある人々です。ですが郷は、ある危機を迎えます。

土地は、領土は、いったい誰のものか。攻め込まれたとき、屈するのか逃げるのか、それとも?――自らに問いながら書きました。自分ならどうするか、と。連載終了後まもなく、ウクライナ侵攻が始まりました。この小説のラストは、かの侵攻を予見できていない頃に書いた、一つの願いでした。

このちょっと不思議な物語、どうぞお楽しみください。

――朝井まかて

 

著者プロフィール

朝井まかて(あさい・まかて)さんは、1959年生まれ、大阪府出身。甲南女子大学文学部卒業。2008年、小説現代長編新人賞奨励賞を受賞し、『実さえ花さえ』でデビュー。

2013年『恋歌』で本屋が選ぶ時代小説大賞、2014年に同作で直木賞、『阿蘭陀西鶴』で織田作之助賞、2015年『すかたん』で大阪ほんま本大賞、2016年『眩』で中山義秀文学賞、2017年『福袋』で舟橋聖一文学賞、2018年『雲上雲下』で中央公論文芸賞『悪玉伝』で司馬遼太郎賞、大阪の芸術文化に貢献した人に贈られる大阪文化賞、2020年『グッドバイ』で親鸞賞、2021年『類』で芸術選奨文部科学大臣賞柴田錬三郎賞を受賞。

その他の著書に『先生のお庭番』『白光』『ボタニカ』『秘密の花園』、大阪初の洋式ホテル開業で外交を支えた夫婦の物語『朝星夜星』などがある。

 

青姫
朝井まかて (著)

 


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