ジョン・バージャー×ジャン・モア〈グローバルサウスの労働者を奮い立たせてきた〉ノンフィクション『第七の男』が50年の時を経て初邦訳
黒鳥社は、同社初の翻訳書『第七の男』(著:ジョン・バージャー/写真:ジャン・モア/訳:金聖源さん)を刊行しました。
移民問題に揺れる現代社会を穿つ美しき“告発の書”
本書は、英国の作家ジョン・バージャー(1926-2017)が1975年に発表した、欧州の移民労働者に関するノンフィクション作品です。
美術批評家でもあり、小説家でもあり、詩人でもあり、ジャーナリストでもあったバージャーは、50年前、すでに社会問題となっていた欧州の移民問題を、新聞的な社会派ルポルタージュとも客観的な社会学的エッセイとも異なる独自のアプローチによって描き出しました。
文章と写真を用いて移民問題の核心にある不自由へと迫った伝説の“パンフレット”は、半世紀を経たいま、読む者の心にいっそうリアリティをもって迫ります。
移民問題に揺れる現代社会を穿つ美しき“告発の書”です。
ジョン・バージャーとは何者か
日本では『イメージ:視覚とメディア』『見るということ』(ちくま学芸文庫)などの著書から美術批評家として認識されている方も多いかもしれませんが、1972年に小説『G.』でブッカー賞を受賞するなど母国イギリスではとても有名な作家で、小説、詩、戯曲、美術批評、ノンフィクションを多数執筆したほか、TV番組や映画の製作にも携わるなど、生涯に残した仕事は膨大にして多岐にわたります。
自分は「ストーリーテラー」なのだと本人はよく語っていたそうです。

(c) Jean Mohr
詩作と写真と批評が交錯する、本書の独特な構成
盟友だった写真家のジャン・モアが撮影した写真とともに、詩、評論、哲学的考察などがないまぜに編集された独特な構成は、刊行から50年を経たいまもなお斬新さを失っていません。
ジョン・バージャーに影響を受けた作家たち
日本ではあまり知られていないジョン・バージャーですが、世界では「バージャーに影響を受けた」という書き手は少なくありません。おとなりの韓国では20作品以上が翻訳されています。詩人、作家、音楽家たちのバージャー評を紹介します。
最も政治的で、最も先鋭的で、
最も激しい告発をもって、
最も気高い人間性を証明する。
ジョン・バージャー。
私たちが最も長く愛する作家。
──キム・ソヨン(詩人/『数学者の朝』『一文字の辞典』ほか)
ジョン・バージャーは、わたしが親密な繋がりを感じる作家のひとりです。
彼の作品は、美と政治の双方に深く関わっているからです。
──レベッカ・ソルニット(作家・批評家/『ウォークス』『オーウェルの薔薇』ほか)
文章をもって世界の見方を一変させてしまう作家は数少ない。
バージャーは、そのひとりだ。
──ジャーヴィス・コッカー(音楽家)
バージャーの作品には、
愛と、芸術と、政治と歴史をめぐる洞察が
つねに折り重ねられている。
──アリ・スミス(作家/『春・夏・秋・冬』4部作、『両方になる』ほか)
現代英文学において、
バージャーは比類なき存在だ。
ロレンス以降、わたしたちの感覚世界に
これほど配慮しながら、良心をめぐる重大事に
応答した作家はいない。
──スーザン・ソンタグ(作家・批評家)
バージャーのおかげで、世界は住みよくなった。
──アルンダティ・ロイ(作家/『小さきものたちの神』『帝国を壊すために』ほか)
著者プロフィール
■著者:ジョン・バージャー(John Berger)
1926年生まれ、ロンドン出身。小説家・批評家・画家・詩人。1972年、英国BBCで企画/脚本/プロデュースのすべてを担当したTV番組4部作「Ways of seeing」で広く存在を知られる。同名書籍は美術批評界の金字塔とされ、欧州市民の多くがアートや文化理論を理解する契機を得たとされる。同年、小説『G.』でブッカー賞を受賞。70年代からフランス農村に拠点を移し表現活動を続け、2017年に90歳で逝去。
主な著書に『イメージ:視覚とメディア』(伊藤俊治訳/ちくま学芸文庫、2013年)、『G.』(栗原行雄訳/新潮社、1975年)、『果報者ササル:ある田舎医者の物語』(村松潔訳/みすず書房、2016年)、『批評の「風景」:ジョン・バージャー選集』(山田美明訳/草思社、2024)など。
■写真:ジャン・モア(Jean Mohr)
1925年生まれ、ジュネーヴ出身。ドキュメンタリー写真家。赤十字国際委員会(ICRC)、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)等の人道支援団体の活動に同行し、その記録作品で知られる。
ジョン・バージャーと50年にわたる親交のなか多くの共作を残したほか、エドワード・サイードとの共作でも知られる。戦地の人びとの目線を記録したその写真の多くは、現在スイス・エリゼ写真美術館に収蔵されている。日本でも過去に2回、広島平和記念公園で野外写真展が開催された。2018年に93歳で逝去。
主な著書に『果報者ササル:ある田舎医者の物語』(ジョン・バージャーとの共著/村松潔訳/みすず書房、2016年)、『パレスチナとは何か』(エドワード・サイードとの共著/島弘之訳/岩波書店、1995年)など。
![]() | 第七の男 ジョン・バージャー (著), ジャン・モア (写真), 金聖源 (翻訳), ジョン・バージャー(1926-2017)──小説家であり、美術批評家、ジャーナリスト、詩人でもあった20世紀英国文学における孤高の”ストーリーテラー”が、今から50年前に放った鮮烈なドキュメンタリー。欧州の移民問題を扱い、新自由主義経済の暴力の核心に迫った伝説的「告発の書」、待望の初訳! 造本・デザイン:藤田裕美 |
◆ブレイディみかこさん初の長編小説『両手にトカレフ』が文庫化 | 本のページ
◆世界が熱狂した「世界の首都」構想を追ったノンフィクション『人類の都 なぜ「理想都市」は闇に葬られたのか』が刊行 | 本のページ
◆ひとりでは行かせない!強制送還される父を追って、自らアウシュヴィッツ行きを志願する息子──ノンフィクション『アウシュヴィッツの父と息子に』が刊行 | 本のページ
◆人間と熊の果てなき死闘! 故・今野保さんノンフィクション『羆吼ゆる山』が復刊 | 本のページ