至高の楽団はなぜ経営母体を持たないのか? 渋谷ゆう子さん『ウィーン・フィルの哲学』が刊行

渋谷ゆう子さん著『ウィーン・フィルの哲学――至高の楽団はなぜ経営母体を持たないのか』
渋谷ゆう子さん著『ウィーン・フィルの哲学――至高の楽団はなぜ経営母体を持たないのか』(NHK出版新書)がNHK出版より刊行されました。
音楽プロデューサーとして彼らの公演の収録にも携わり、また楽団長や団員に密着して取材を行なってきた渋谷ゆう子さんが、180年続くウィーン・フィルの「行動原理」を詳しく解説。ハプスブルク家の治世から受け継がれてきた、無二の奏楽と伝統の奇跡を紐解く一冊です。
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団とは

(c) Vienna Philharmonic / Dieter Nagl
ウィーン・フィルは、1842年にオーストリア帝国で生まれた、ウィーン宮廷歌劇場管弦楽団(現ウィーン国立歌劇場管弦楽団)の奏者で構成されたオーケストラです。
音楽文化華やかなりしウィーンには、ハイドンやモーツァルトをはじめとする偉大な作曲家をすでに輩出し、音楽を愛する聴衆も育っていました。音楽文化そのものに後押しされる形で創設され、後にはブラームスやマーラーといった一流の作曲家たちがウィーン・フィルを指揮するなど、クラシック音楽の発展と歴史に密接な関係を持つ特別なオーケストラです。
ウィーン・フィルは自主運営で活動するオーケストラ
言わずと知れた世界最高峰のオーケストラ、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団。じつは彼らは創設から一貫して経営母体を持たず、指揮者選定から経費処理まで、演奏家たち自身が民主的に運営を行っています。なぜ彼らは長きにわたり後ろ盾なしで存続し、伝統を守り続けてこられたのでしょうか。
ウィーン・フィルは音楽界の「ファーストペンギン」として、常に音楽のパイオニアとして業界をリードしています。2020年のコロナ禍では、オーストリアのロックダウン開始から約2か月後、世界に先駆けて「通常の」演奏活動を再開するなど、音楽による希望の光を世界に届けました。その一方で、帝国の崩壊や二度の大戦など、幾度となく歴史に翻弄され、そのたびに存続の危機に立たされています。
それでも彼らがその音楽的伝統を絶やさずに継承し得たのは、煌びやかな演奏のバックステージで、地道な運営と経営を演奏家たち自身で行なっていることにひとつの理由がある、というのが著者の見立てです。
オーケストラを組織する自主運営団体である彼らは、それぞれが個人事業主であり、演奏家として一国一城の「王」でもあります。しかも世界最高峰のプレイヤーとあって、その面々は曲者ばかり。そんな「王」たちがいかにして民主的に運営や楽団の方針に関わるさまざまなことを決定し、組織を動かしているのか。
設立の歴史、目的から、昨今の多様性とジェンダーの問題、オーケストラのワーク・ライフ・バランスの問題まで、知られざる舞台裏が明かされます。
また本書では、伝統ある芸術集団が必ず直面する「踏襲か、改革か」をめぐる組織変革の攻防や、団員の多様性が増すことによってオーケストラの音楽的個性が均質化していく問題、CDからストリーミングサービスに移行しつつある音楽業界での収益減に、オーケストラがどう対処しているのかなど、具体的なエピソードと団員の言葉が豊富に収載されています。
本書の構成
はじめに
第1章 音楽界のファーストペンギン
第2章 ウィーン・フィルとは何者か?
第3章 ウィーン音楽文化と自主運営の歴史
第4章 戦争が落とした影
第5章 王たちの民主主義
第6章 アート・マネジメントの先駆として
あとがき
ウィーン・フィル関連年表
参考文献
著者プロフィール
著者の渋谷ゆう子(しぶや・ゆうこ)さんは、大妻女子大学文学部卒業。音楽プロデューサー、文筆家。
株式会社ノモス代表取締役として、海外オーケストラをはじめとするクラシック音楽の音源制作やコンサート企画運営を展開。また演奏家支援セミナーやオーディオメーカーのコンサルティングを行う一方、ウィーン・フィルなどに密着し取材を続けている。
ウィーン・フィルの哲学: 至高の楽団はなぜ経営母体を持たないのか (NHK出版新書) 渋谷 ゆう子 (著) 正統にして先鋭。180年受け継がれてきた音楽と伝統の奇跡 言わずと知れた世界最高峰のオーケストラ、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団。なんと彼らは創設から一貫して経営母体を持たず、その運営を演奏家たち自身が行っている。なぜ彼らは長きにわたり後ろ盾なしで存続し、伝統を守り続けてきたのか。2020年、コロナ禍でコンサート開催が困難を極めた時期の来日公演の舞台裏から、組織のマネジメント形態や奏者たちによる「民主制」の内実、偉大な音楽家との関わりや戦時の対応、変化するマネタイズの手法まで。音楽ジャーナリストとして楽団長や団員に取材を行い、同時に彼らのレコーディングにも参加する著者が明かす、180年続くウィーン・フィルの「行動原理」。 |
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