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「第53回蛇笏賞・迢空賞」贈呈式&祝賀会を開催 受賞後逝去の大牧広さんのメッセージも

「第53回蛇笏賞・迢空賞」贈呈式&祝賀会を開催

「第53回蛇笏賞・迢空賞」贈呈式&祝賀会を開催

公益財団法人「角川文化振興財団」は6月28日、昭和42年に設立されて以来、今年53回目を数える俳句・短歌界の最高賞の一つである「第53回蛇笏賞・迢空賞」の贈呈式と祝賀会をホテル メトロポリタン エドモンドにて開催しました。

「蛇笏賞」「迢空賞」は、日本詩歌の興隆に力を尽くした飯田蛇笏さん、釈迢空(折口信夫)さんの遺徳を敬慕し、世世に語り継ぎ、日本詩歌の振興に一層の努力を期すことを目的に設立された賞です。

 

「第53回 蛇笏賞」大牧広さん 受賞の言葉

第53回蛇笏賞:大牧 広(おおまき・ひろし)さん

■受賞作:句集『朝の森(あさのもり)』(ふらんす堂)

句集『朝の森』(2018年11月 ふらんす堂刊)

句集『朝の森』(2018年11月 ふらんす堂刊)

■略歴
1931(昭和6)年生まれ。東京出身。1965年「馬醉木」「鶴」に入会。1971年「沖」に入会し、能村登四郎に師事。
1972年「沖」新人賞、1983年「沖」賞受賞。1989年「港」創刊主宰。
2005年『俳句界』特別賞を森澄雄さんと共に受賞。2015年句集『正眼』により第30回詩歌文学館賞、第四回与謝蕪村賞、第3回『俳句四季』特別賞を受賞。2016年、第15回山本健吉賞を受賞。2018年『俳句・その地平』により、文學の森特別賞受賞。
2019年4月20日逝去

■受賞のことば

「三月二十八日、私の第十句集『朝の森』が、第五十三回蛇笏賞に選ばれた。
蛇笏賞、私は、俳句の道に入ったとき、こうした最高峰があることを知った。知ると同時に、到底人智の叶わぬ「賞」であることと、心の中で三割ほどの「挑戦してみよう」という気持が芽生えたことも知った。
そんな思いを芽生えた日から、三十年が経っている。
私が発行した句集の中で、」(4月1日自筆原稿)
「蛇笏賞の受賞、これは望外の喜びです。夢が現実になるとは思わなかった。
これに傲ることなく、俳句の道でお役に立てることがあれば、とても有難いことです。」(4月13日ボイスメモ)

◆小泉瀬衣子さん(大牧広さん次女)より
「昨年十二月に膵臓癌を宣告され、在宅医療にて過ごしてきましたが、四月になってからは日に日に容態が悪くなり、十日に再入院する頃にはほぼ寝たきりの状態になっていました。浮腫や怠さによりペンを持つ事さえできないまま病院で過ごした十日のあいだ、父は何度か「夢か現か」と呟きました。
四月十九日午後、父は「俳句の事でなにかやり残したことあった?」と私に問いました。「角川から依頼されている仕事がある」と答えると、「じゃあ言うから、書いて」と言いました。父は次から次へと句を詠みました。その大半は「夢」の句でした。
父が亡くなったのはその翌日でした。                    

仲 寒蟬 さん(左:受賞者代理)

仲 寒蟬 さん(左:受賞者代理)

●表  彰:賞状・記念品ならびに副賞100万円
●選考委員:片山由美子さん・高野ムツオさん・高橋睦郎さん・長谷川 櫂さん

 

「第53回迢空賞」内藤明さん 受賞の言葉

第53回迢空賞:内藤明(ないとう・あきら)さん

■受賞作:歌集『薄明の窓(はくめいのまど)』(砂子屋書房)

歌集『薄明の窓』(2018年5月 砂子屋書房刊)

歌集『薄明の窓』(2018年5月 砂子屋書房刊)

【略歴】
1954(昭和29)年8月10日生まれ。東京都大田区出身。早稲田大学第一文学部在学中に「まひる野」に入会。1982年、武川忠一さんの「音」創刊に参加。歌集に『壺中の空』『海界の雲』『斧と勾玉』(寺山修司短歌賞)『夾竹桃と葱坊主』『虚空の橋』(佐藤佐太郎短歌賞、若山牧水賞)、論集に『うたの生成・歌のゆくえ』など。現在「音」発行人、早稲田大学教授。

■受賞のことば

「思いもかけず受賞の電話をいただき、恐縮し、立ちすくみました。『薄明の窓』は、十年ほど前から八年間の日々のつぶやきをほぼ編年順でまとめた六冊目の歌集です。前歌集『虚空の橋』が短い間の連作を中心としたものであるのに対して、新たな試みがあるわけではありませんが、東日本大震災や身近な人の死が中途にあって、時代の変化を背景に置きながら、自らの生や思いが、時に屈折しながら、やや自然な形で表われているかもしれません。

短歌を作り始めて四十年以上になりますが、まだよくわかりません。この詩形や日本の文学や文化、また〈私〉や自然や歴史についても思いをめぐらしてきましたが、どれも中途半端に過ごしてきました。しかし、短歌を作ることで、声高に主張はしなくても、形なきものを言葉に刻んで残すことができたのは、うれしいことです。迷うことも多いですが、与えられた環境、ともに短歌を作り考えてきた方々、支えてくれた家族に感謝するばかりです。

最後に迢空の名を冠した賞にこの集を選んでいただいた選考委員の皆様に、心から御礼申しあげます。」

内藤明さん(左:受賞者)

内藤明さん(左:受賞者)

●表  彰:賞状・記念品ならびに副賞100万円
●選考委員:岡野弘彦さん・佐佐木幸綱さん・高野公彦さん・馬場あき子さん

 

朝の森
大牧 広 (著)

◆第十句集
敗戦の年に案山子は立つてゐたか

戦争体験の一証言者として老境に安んじることなく反骨魂をもって俳諧に生きる著者の渾身の新句集。

◆自選十五句より
鳥雲にヒトはめげずに希望抱く
夏草と引込線の睦みゐて
見下しても見下しても蟻穴に入る
父とつくりし防空壕よ八月よ
芒山一本づつが傷だらけ
戦中や兵擲たれゐし芒原
地下街に売られし芒自暴自棄
遠くなる老のまなざし白甚平
軍神の生家朽ちゐて草いきれ
達観は嘘だと思ふ新生姜

 


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